黒田x天賀谷
Chapter1 1日目
1日目 ― 黒田 紫陽 → 天賀谷 弥季 以下交互
(大ホールを抜け出せば、一通りMAPを見ながら各階を廻ろうと。
とりあえず、中に入るのは止して辺りの様子を伺う。他の参加者達も色々と見て回っているのを見かけるが声はかけず――最終的に又、大ホールへと戻るよう一周してきて。
勢い良く抜けたはいいが…大ホールもよく調べていなかったしまずはここから探ろうか、と中へと。)
っ……。
(大ホールへ入れば未だ、数人の人。中央には、無惨にも先程の少女の死体が残っており。
生臭く、死を感じさせる嫌な臭い、酷い情景にその場からすぐ離れたい気分だった。
しかしそんな事を言っている訳にも行かず。見る限り死体しか無い部屋をまず何処から調べようか…特に可笑しい箇所も無さそうだし、なんて思いながら辺りを見渡していれば…片隅に口を抑えて蹲る少女を見つけて。
他人と関われば…脱出の為に殺される可能性があるかもしれない。故に一人で行動しようとしていたのだが…
彼女の様子を見ていれば、見過すのは何となくいけないような気がして。
ゆっくりと歩み寄れば、彼女の前でしゃがみ込む。)
おい、……大丈夫か?
(と、出来るだけ落ち着いた声で怖がらせないように声をかけてみて)
………。
(恐る恐る顔を上げて、声を掛けてきた人物を見ると、
そこにいたのは一人の青年。
優しげな声色で話し掛けてきてはいるが、それはこちらを油断させる為のものであって、
実の所、こちらを気遣う様な事は一切考えていないのかもしれない。
こんな状況だからこそ、目の前にいる人物に対して、警戒心という言葉だけが埋め尽くされていく。)
…大丈夫、平気だから。
(なんとか声を紡いでそう答えるも、身体はいつだって正直だ。
誰がどう見たって震えているのが一目瞭然といった所だろう。
その震えは先程、惨たらしい死を目の当たりにしてしまった事が原因なのだが。)
大丈夫……じゃ、無さそうだけど。
取り敢えず、ここを出よう。あっちに出口あるから。
(彼女が自分の事をどう捉えているかは分からない、少なくとも安全だとは認識されていないだろう。ただ、返事を返してくれた事に少し安堵して。
しかし身体を見れば大丈夫、と言う彼女はどっからどう見ても小刻みに全身を震わせており。
その彼女の強がりからようやく、警戒されているんだな、と認識させられて――。
兎に角、まずはここから彼女を安全な場所へと移動させようと、扉の方を指さし言葉を述べる。
その場から立ち上がれば、立てるか?と言葉をかけて手を差し伸べて)
…だから、大丈夫だって言ってるでしょ。
(こちらに差し伸べられている手をガン無視すると、自らの力を振り絞って何と立ち上がってみせる。
だが、無理に立ち上がったせいで、
フラッとなりその場をよろめいてしまう。
いきなりこんなにも怖い状況に合わされ、本当は誰かに頼りたくて縋りたくて仕方ないのだが、
相手への警戒心と、天賀谷自身の無駄に強がってしまう面倒な性格も相まって、中々素直になれずにいた。
相手に弱みや主導権を握られてたまるものかと。そう思っていた。)
っと、危な…!
……はあ、何処が大丈夫なわけ?……っ。
(手を差し伸べるも必要とされず、自力で立ち上がる彼女を見守る。
だが、間も無くよろめくその姿を見れば咄嗟に手が出そうに…許されるならば彼女の腕を、支えるように掴もうとして。
大きく溜息を吐けば、彼女の無駄に強がる姿に心配しているからこそ…思わず少し強い口調で言葉をかけてしまう。…すぐに言葉選びの過ちに気付き、口を閉ざすのだが。
――やってしまった、こんな言葉をかけるつもりじゃなかった。これじゃ余計に不信感を募らせてしまうだけなのに。
しかし時間が経つにつれてどんどんと余裕は無くなっていこうと。)
…私が大丈夫って言えば、大丈夫なの。
だから、その腕を離してよ。
(自らの腕を掴まれると、もはや説得力の『せ』の一文字も浮かび上がって来ないであろう言葉を口にする。
先程とは打って変わって強い口調に一瞬怯むも、すぐに平静を装うと脳内で様々な思考を深めていく。
口調を強めたのは、こちらがあまりにも強情だから主導権を握る為にわざと強めたのか、うっかりボロを出してしまったのか、それとも純粋に心配しているから…?
…いや、最後の考えは安直すぎる。
誰かに頼りたくて縋り付きたいというのも本音だが、頼る人を間違えてしまえば、それは後にとんでもない事態を引き起こすかもしれないと。
彼の目をじっと見つめているが、その瞳は『疑心』と『信用してもいい人なのか』という二つの迷いから成り立った葛藤があり、
明らかにどうすればよいのか分からないといった様子。)
……悪かった。
(と、一言告げれば掴んでいた腕を離して。
別にこのまま去っていってもいいのだろうが先程まで怯え震えていた少女を置いていく程、彼は冷酷な人間ではなくて。
どうすれば彼女の信頼を得る事が出来るだろうか?こういう時、なんて声をかければいいのだろうか。
そんな事を考えて俯けば自分の右腕に目がいき、腕輪が嵌っていた事を思い出す。)
……別にあんたを殺そうとか思ってないよ。ただここにずっと居てはあんたの精神が持たないんじゃないかと思って声をかけただけ。さっき、この腕輪でMAPを見ながら外を歩いて来たんだが、鍵がかかりそうな個室があった。…怖いならそこへ向かえばいい。
…俺は黒田 紫陽。20歲、大学生。この情報の通り。手帳しか持ってない。あんたが望むなら、身体チェックして貰っても構わないけど?
(俯いた顔を上げて真剣な眼差しで彼女を見つめれば、素直に思っていた事を伝え彼女に情報を提供する。
その後名前、年齢、職業を伝えれば、その腕輪を操作して。自分の情報を表示させ彼女に向けて右腕を差し出し、その情報を見せようと。
一方、空いた左手でズボンのポケットを探れば手帳を取り出し、何も隠している事は無いとはっきりとは言わないがそんな言葉を投げかけてみて。)
………
(黙って相手の話を聞き、またも脳内で思考を深めさせていく。
表情や声色から判断すると、一見嘘は付いていなさそうな気はする。多分だけど。
そして、彼の腕輪に目を通してみると、どうやら自分の情報に嘘を付くことなく教えているようだ。
彼の情報を確認した後、今度は自らの腕輪を操作して、地図·自分の情報、アプリ(??)のアイコンマークの様なものがあるのを確認。
一つずつ、画面をタップして内容に目を通していく。
…一体、個人の情報をどうやって入手したのだろう。
と疑問に思ったが、そこまで考えるのがかったるくなってしまったので、直ぐに思考放棄してしまった。
とにかく、個室の確認は先に済ませるべきかもしれない。)
ふーん。どうやら、嘘は言っていないみたいだね。
…私は天賀谷 弥季。19歳のだいがry…
(完全に盲信したという訳ではないが、嘘を言っている節もないので一先ず信じていいのかも。
天賀谷自身も自己紹介するのだが、自らが選んだ道だというのに、『無職です』と人に堂々と言うのはなんだか恥ずかしい。
だから、『大学生です』と経歴詐称しようと思ったが、それは相手が本当の情報を教えてくれたという気持ちに応えていないし、あまりにも失礼だ。
それに、嘘をついてしまえば、当然の如く、それは自分に悪い形で返ってくるし、何より信用して貰えなくなるだろうと。)
…私は特に何もしていないから。
(ポツリと、自分が無職であるという事実を伝える事にした。)
天賀谷…ね。
(彼女が此方の腕輪を確認すれば右腕を引っ込め、手帳もポケットへとしまい。
自己紹介を聞けば、よろしく、と言うべき状況でも無いかと敢えて名前を復唱する。
――名前を教えてくれた、と言う事は少しでも此方に敵意が無いという事を感じ取ってくれたのだろうか。
彼女が無職である事に対しては特に何も感じていない様子で、あっそう…、とだけ返して。
自分だって、対して大学には通っていなかったし、こんな状況で学歴やら職歴が役に立つとは思っていない。
それに職業を知った所で、弱々しく怯えていた彼女を助けるのを辞める訳も無く。殺人犯です、だとかだったら別だけれど。)
さ、……お互いの身分は判明した事だし、これで知らない者同士じゃない。
個室までは案内してやるから、ここから出よう。
(流石に慣れない臭いで充満しているこの部屋に長時間居る事は辛い。正直なところ、吐き気だって感じている。
兎にも角にも、この場所から一刻も離れてしまいたく。捜索するつもりではあったが、見回した限りだと正直ここに何かあるとは思えない。
彼女に行くぞ、なんて声をかければ背を向けて扉に向かって歩いていこうと。)
…ありがと。
(ポツリと一言、お礼の言葉を述べると、歩き出した彼に着いていく。
まだ完全に落ち着いたという訳ではないが、移動出来る程には落ち着きを取り戻した様子。
よかった。無職である事を馬鹿にする様な発言も、大声を出して極端に驚かれる事もなくて。
ここで、それらの反応があり、
尚且つ無職である理由を詮索されていたら、天賀谷は彼の事を信用出来なくなっていただろう。
個室まで案内してくれるだけでもありがたいが、無職である理由に詮索しないでくれるのもありがたくて、天賀谷は今、二重の意味で感謝していた。
それを口に出したり、表情に出す事はしないけれど。)
…そういえばさ、敬語使った方がいい?
(単純に私の方が年下だから。という意味合いで尋ねてみた。
天賀谷的には敬語は堅苦しくて、使うのもかったるいから、今の方が楽だったりする。
それに、一つしか年変わらないし。
相手がどうしても使えと言うのなら、不本意ながらに使うけれど。)
……どーいたしまして。
(彼女が後ろからついてくる様子を見れば安堵して。……彼女の警戒心を解く事が出来たのか、少しばかり自信が無かったから。
そのまま、すたすたと歩いていけば扉を開いて更に先へと進む。
3階の部屋は数も少ないし既に埋まっている可能性もあるだろう、と数が多い2階へ向かおうと。)
いや、別に。そこまで歳だって離れてないし、そのままでいいよ。
そっちのが楽なんだろ?
(最初から敬語を使っている事は無かったのできっとそれが慣れているのだろうと。
それにこんな状況で気を遣わせるのも、疲労が溜まるだろうし。)
…歩くの早すぎ。そこは女子に合わせるのが定石なんじゃないの?
(要するに、『もう少しゆっくり歩けよ』という意味。
相手への警戒心は多少薄れているのか、言いたい事も言える様になってきた。
始めの怯えていた印象からひょっとすると、オドオド系女子みたいな印象があったかもしれないが、
ある程度慣れてくると、ちょっとした文句を直ぐに口にしたりするのが彼女、天賀谷である。
人によっては、面倒で何かと煩い女に思われるかもしれない。
歩幅に差がある為、少し小走りになって、なんとか彼に着いていくのがやっとと言った所だろう。
引きニートで体力がない彼女には、わりとキツい。)
じゃあ、遠慮なく。そのままにする。
(もし、『絶対に敬語を使え』と言われていたら、天賀谷の疲労ゲージは100%を通り越して、もはやカンスト。完全に、故障していただろう。
とりあえず、敬語を使う必要性が無くなったのは、気がとても楽になった。)
…ん、?あ…ああ悪かったな。
(後ろからかけられる声、何事かと振り向けば一生懸命小走りをしてついてくる姿にようやく気がついて。
いや、さっきまであんな怯えてたのに。女って変わるもんだなぁなんて…適当な事を考えながら、とりあえず謝罪して歩みを緩める。彼女がゆっくりとついて来られるような速度を保てば、これでいいか?なんて問いかけてみて。)
名前も適当に呼んでくれて構わない。
……まあ、もう関わらないかもしれないけど。
(とそんな事を言うのは、出来るだけ一人で行動したいからで。
傍に居た方が死亡率は低くなるかもしれない事は分かっているのだが…調べなければいけない事もある。
それに――なんだか、一緒に居てしまえば彼女を危険にさらしてしまいそうな気がして。)
大丈夫、問題ない。
それで、個室は何処にあるの?
(このペースなら、流石に体力不足の私でも着いていけるので、特に問題点はなく。
自分の腕輪にMAP機能があるのだから、それを見れば早い話なのだが、かったるいので相手に聞いてみることに。
個室があると言っているが、部屋の内装はどんなものだろうか。
とりあえず、寝具と風呂場、食料位は配置されているといいのだが…
特に、部屋に棒付きキャンディーがあると尚良し。恐らく、それはないだろうけど。)
まぁ、そりゃそうだよね。
私みたいなのがいれば、確実に足手まといになるから、紫陽が危険な目に遭いそうだし。
(『関わらないかもしれないだろうけど』と言われれば、
私みたいに体力がない女は、まるで役に立たないという事なんだろうと勝手に勘違いして、ネガティブな方向へと進んでいってしまった。
それに関しては否定する余地もないので、確かにそうだなと頷く。
現に、今だって迷惑を掛けているのは間違いない。
私は体力もなければ、頭も悪いから、いた所で本当にお邪魔虫だし。
因みに、紫陽と呼び捨てで呼ぶ事にしたらしい。)
足手まとい、とかそんなんじゃない。
逆に……いや、何でもない。
(危険な目に合わせてしまうかもしれない、なんて言いかけたがきっと彼女の恐怖心を煽ってしまうだけだろう。
何も知らないままで居た方がきっといい――。)
もう着く。……と、この階が全部個室らしい。
……適当に好きな場所を選べばいいんじゃないか。
(階段を降りれば、ずらっと並ぶ扉。数名程他の参加者が扉の前に居るようだが…特に気にする事無く。
最も安全な部屋は何処だろうか、なんて考えるけれど、結局どれも一緒だろうと考える事を辞めて。
彼も、天賀谷と同じように面倒臭がり屋で適当なのだと感じるかもしれない。
俺はここでいいや、と階段に近い部屋の前へ歩み寄ればドアノブへと手をかける。
ガチャリ、と音を立てて扉が開く事だけを確認して。)
…何それ? 気になるんだけど。
(何かを言いかけて止められると、物凄く気になってしまうのか、
思わずそう言ってしまった。
けれど、足手まといじゃないと否定されたのは、少し安心した。)
じゃあ、私は紫陽の隣にする。
何かあったら、部屋の扉を思いっきり叩くから。嫌なら別にいいけど。
(思ったよりも部屋数があるのだなとそんな感想を抱きつつ、他の人がいるのを確認するも此方も特に気にしているような節はなく。
そして、天賀谷も決めるのがかったるいのか、適当に紫陽の隣の部屋にする事にした。どの部屋も一緒だろうと。
紫陽も紫陽で、結構面倒臭がり屋なんだなと内心思いつつ。
部屋の扉を思いっきり叩くと言ったが、相手が嫌だというのなら、
それはやめるつもり。関わらないつもりだと言われているし、
あくまでもダメ元で言ってみただけにすぎない。)
……言わねぇ。
(まさか何と言ったか聞き返されるとは思ってなかったようで戸惑った様子で一瞬口を閉ざし。その後小さな声でそう呟いて。
…今更言うのも恥ずかしいし、恐怖心を与えたくない、というのも変わって居らず。)
……勝手にどうぞ、
部屋から出なけりゃ危険な事なんて起きないだろ。……万が一何かあるんだったら、部屋の壁を叩けばいい。外にいるのは…危ないだろ。
(隣の部屋に決定した事には否定もせず肯定もせず。好きにすればいい、と言った意味でそんな言葉を投げかけて。
彼女が扉を叩くと言えば、後の言葉を続けて。
部屋から出なくても問題の謎は解けるはず。故にそんな極端な事を言って。彼女だって食事やらトイレやら洗濯だって…外に出てしなければならない事もあるかもしれないのに、この男はそんな事は一切考えておらず。)
あっそ。じゃあ、もういいよ。
(ここまで頑なに言われると、無理に聞くつもりなど起きなかった。
この場はスルーした方がいいのだろうと。)
確かに、部屋から出ない事が一番身の安全が保障されるかもね。
けどさ、部屋から出ずにただただじーっと考えてるだけで、問題解けると思ってんの? 各所に何かヒントがあるかもしれないじゃん。
だから、外に危険が付き纏っているとしても、私は絶対に探索しに行くから。
(最初の怯えっぷりは何処へいったのかと言わんばかりに、強気に言ってのけた。
と口ではどんなに強く言ってのけても、一人で探索しに行くのはやはり怖いものがあるらしく、
手が震えてしまったのが、目に見えるかもしれない。
見せしめとか言って、あんなに惨い事をする輩だ。周囲に何か致死性の高いトラップが仕込まれているかもしれない。
そう思うと、怖くて仕方がなかった。でも、動かないと何も始まらないから出ていかざるをえなくて。
普段は家に篭ってばかりだというのに、自ら部屋を出て行く選択肢を選んだのは確実にこの状況が彼女を突き動かしているからだろう。)
……そこまで言うなら、俺は別に止めはしないさ。止める権利もないし。
だけど……怖いなら辞めといた方がいいぞ。
(彼女の打って変わった様子には、どう対処すればいいのか分からず困ったような顔をして。まさか、こんなに頑固だったとは。
然しそんな事を言っている彼女の手が震えているのを目にすれば、揶揄うように言葉を紡ぐ。大人しくしておけばいいのに、なんて思いながら。
各所にヒントがあるかもしれない…か。確かにマップはある、けれど…これが謎解きの為に用意された舞台ではなく殺人を行う為に用意された舞台と考えたならば――)
さて……部屋までは案内したし、俺はそろそろ行く。
(じゃ、と声をかければ決めた部屋に入る訳でもなく階段の方へと向かっていくだろう。
――捜索を再び始める為に。)
大丈夫、怖いとか言ってても、何も始まらないから。
(手に力を入れ、震えを無理に止めてみせて。
出て行くと決めた以上は、なにがなんでも出て行ってやる。そんな決意の様なものが瞳に込められていた。
そして、脱出を果たし、必ず元の日常世界へ帰ろうと。)
…分かった、お気を付けて。
(そう言葉を掛けると、彼を見送ろうとする。
『また何処かで』は、普通の日常生活だったら確実にそう言っていただろうが、
この状況だと、そう口にするのはなんとなく間違いな気がしたので、
『お気を付けて』と、相手の身を思い遣る様な言葉をチョイスした。)
Chapter1 3日目
3日目 ― 黒田 紫陽 → 天賀谷 弥季 以下交互
(3日目。この日は深くまで眠る事が出来ずボーッとした意識の中、流れ始める音声によって完全に目が覚めて。
ベッドから身体を起こして音声を聞けば、厄介な事になったな…なんて困惑気味に一人呟く。このルールだと、必ず誰か1人は死なねばならない。また、音声の中にあった以前のようにはいかないという言葉にも引っ掛かり。
只でさえ現状何の手掛かりも自分の手で見つけて居ないのに、更に増える問題に頭を抱え悩んでいれば、隣の部屋より何かの衝撃音が聞こえてきて。)
……っ?!
(隣の部屋は確か天賀谷だ。あの時、俺の隣にする、なんて言ってたっけ。……まさかそんなにすぐに?
嫌な予感が脳裏を掠め、急いで部屋から出れば辺りを見回す。どうやら、人は居ないようで。ならばまだ中に誰か居るんだろうか?
鼓動が早くなっていくのを感じながら、ドアノブに手を掛けてゆっくりと扉を開けようと。勿論……願いも虚しく、それはすんなりと開いてしまい。
そのまま中へと恐る恐る入っていけば…彼女と目が合うかもしれない。)
ビクッ…!
(急に部屋の扉が開いた事にビクリと反応し、それがきっかけで完全に目が覚めてしまう。
そういえば、昨日は部屋の鍵を閉める事もなく、寝たんだっけ?
途端に沸き起こる『恐怖心』と『警戒心』。額に嫌な汗が吹き出し、身体の震えも止まらず。
今まで平穏に時が過ぎていたのですっかり忘れきっていたが、このゲームは謎を解くだけでなくて、誰かを殺害し、その殺人履歴を腕輪に読み込む事でもクリア出来る事を思い出した。
もしかしたら、今後ろにいる人物は私を殺そうとしているのだろうか?正直、振り向くのが怖い。
けど、隙を見て逃げ出す為には向かざるを得ない訳だが。
恐る恐る後ろを向くと、そこにいた人物と目が合った。
見知った顔である事に安堵したのだが、それと同時に別の感情も沸き起こった。)
………アンタさ、女子の部屋に入る時はノックしろって習わなかった?
(と一言。なんて、デリカシーのない奴だと心から思った。
ノック無しに部屋に入ってこられるのは、無論イライラする。
そもそも、紫陽はどうして勝手に入って来たのだろう。何か緊急事態でもあったのだろうか?
その原因は他ならぬ彼女自身にあるのだが、本人は全く気づいておらず。)
………。
(後ろを振り向く彼女と目が合えば、今の状況に理解が追いつかず無言で立ち尽くしたままで。
いや、どのような状況であれ彼女が生きていた事に安堵すれば、はあー、と大きく息を吐いて。念の為辺りを見回す、勿論二人の他には誰も居ないのだが。 )
……鍵閉めておかないからだろ。これが俺じゃなかったらどうしてたんだよ?
…と言うか、さっきの音何?
(後に現す彼女の傲然とした態度から、彼女の身に何も無かったと察すれば、頭を掻いて言い訳するような口振りで逆に問い詰めて。
とんだ勘違いだったのかもしれないと気が付けば、恥ずかしくなり彼女から顔を背けて。)
うーん… その時はどうにかして、逃げるつもりだった。
ああ、あれは私がベッドから転落した時の音。いつもの事だから気にしなくていいよ。
(隙を見て逃げ出そうかなとは考えていたが、そこまで具体的な算段を立てていなかった様でなんとも曖昧な返答になる。
日頃から、寝起き時にベッドから転落する事が日常茶飯事な彼女にとっては、特にどうって事もない出来事。だから、あっけらかんとした様子で言ってのけた。)
あのなあ……まあ、いいや。兎に角、部屋に居る時は鍵閉めとけ。
後、そのベッドから落ちる程の寝相の悪さも直した方がいいと思うぞ。“女の子”だろ?
(その曖昧な返答と音の正体を聞けば、呆れた様子で諭す序でに揶揄うような口調で言葉を紡いで。大きな勘違いであった事に安心はした。
あんな音声を聞いた後だったから、“殺された”んじゃないかと冷や冷やしていたけれど。
再度大きく溜息をつけば、ふと彼女があの音声を聞いてないのでは無いかと思い。)
――ところで今日の音声聞いたか?
(なんて問う。きっと音声の後にあんな派手な音を出していたのだから、音声の最中は寝ていたんだろう、なんて考えて。
それにあの音声を聞いていればノックもせずに入っていった時、顔見知りであっても警戒はされていただろう。)
はいはい、分かりましたよっと。
う、煩いな。 紫陽に言われなくたって、直すつもりだったし。
(揶揄う様な口調に対して、半ばムキになった様にそう返事する。
とは言ったものの、寝相の悪さを改善する方法なんて何も思い浮かばないのだけれど。寝てる時って意識がないんだし、直しようがないんじゃと思っていたり…)
今日の音声? そういえば、何か言ってた様な気がするけど、あんまり聞いてなかった。
(アナウンスが流れた時、寝起きで頭がぼんやりとしていたので内容をほぼ聞いておらず。
勿論、腕輪の『UPDATE』の文字にも気づいていない。)
はい、は一回でい……何でもない、分かればいい。
(適当な返事に小言を言いそうになるが、何だか親みたいな言い草になってしまった事に気付けばすぐ取り消して。)
…なら、ちゃんと聞いといた方がいい。
腕輪。それに、さっきの音声入ってるっぽいから。
(と、彼女の右腕を指差してそう言えば。
ぽい、と付けたのは自分ではまだ聞いていないからで。音声が流れた後に、ちらりと腕輪を見ればアップデートの文字が表記されていたから、多分そうなんだろうと。
ふと、彼女に音声を聞いた方がいいとは勧めたけれど…彼女があのルールを聞けばどう感じるだろうか。
何か叶えたい願いがあるのなら、俺の事を殺しに来るだろうか。…流石に彼女の性格からして無さそうか、なんて一人考えつつもとりあえずその場に留まって。
彼女が危害を加えようとしてくれば、すぐに自室に戻ろう。)
………
(腕輪を起動させ、専用アプリを開くと"例の音声"を聴いてみる。
暫くの間、忌々しいアナウンスが鳴り続けて。)
ふぅん、随分と進展したものだね…
けど、別に叶えたい願いもないからどうでもいいかな。
(彼女の口から出てきた感想はそれ。一生暮らしていけるだけのお金はあるし、何か叶えたい夢や欲している物もない。
仮にあったとしても、殺人には手を染めないけれど。
そして、殺人が起きなかった場合、誰か一人が死ぬとの事だが…
それはその中に自分が入る可能性がある訳で、出来れば死刑宣告を受けたくない。とあくまでも自己中心に考えてしまう自分に腹ただしく感じていた。
まるで、他の人に『自分の代わりに死ね』と残酷に言っている様で…)
…紫陽はどうするの?
(ハッキリと口に出さないが、要するにルール1に便乗して誰かを殺害するのか?と尋ねている。
何か願いがあるのなら、今目の前に絶好のカモがいるから危害を加えてくるのかもしれないが…
じっと見つめているその瞳は、明らかに警戒心を抱いている様子。)
………俺は。
(どうするの、と問われれば口篭る。
警戒心を含む彼女の瞳から逃れるように下を向いて。
――俺はどうしたいんだろう?
別に殺害するかどうか迷っている訳じゃない。彼女――いや、彼女だけでなく他の参加者達を殺す気は無い。けれど生きたいとも思ってる。
でもそれじゃ、他の人が行動すればだとか他の人が選ばれればいい、なんて結局他人任せで、他人を蹴落すような考えに至ってしまう。
例え話だが……もし、さっきここにきた時彼女が死んでいたら、少しでもホッとしていたのだろうか?嗚呼自分じゃなくてよかった、なんて。死なずにすむ、なんて。
考えただけで生きたいと思っている自分が嫌になる。
…結局の所、彼も彼女と同じように自己嫌悪に陥っているのだ。幾ら考えても、最善の答えが見つからなくて、言葉の続きが中々出てこなかった。)
……俺は誰かを殺す気はないよ。
後さっきノックせずに入ったのは、天賀谷が殺されたんじゃないかって心配だったからで殺そうとかそんな事考えてないから――…悪かったな。
(俯いていた顔を上げて、彼女の目を見据えれば結局殺意が無い事だけを伝えて。
そして謝罪の言葉を述べた後、くるりと背を向けて「生きてて良かったよ」と自分に言い聞かせるように小さく呟き立ち去ろうと――した時だった。大きな破裂音が鳴る。)
っ!……大丈夫か?
(先程の寝ぼけて落ちた音とは比べ物にならないくらいの大きな音に驚いて立ち止まり。すぐにでも、外の様子を確認したいところだが先ずは…近くにいる彼女を、と天賀谷の方へ振り向いて様子を伺って。)
…心配してくれたんだ、ありがと。
(彼に殺意がないという事が分かり、ホッと安心した。 やはり、紫陽の事は信用しても大丈夫だろう、と思った様子。
しかし、一安心したのも束の間、突如響いた爆発音に驚き、ビクリと身体を震わせて。)
…私は大丈夫。だけど、行かなきゃ…!
(何とか声を振り絞ってそう答えるも、顔色は青ざめており、どう見ても大丈夫に感じられないだろう。
それは恐怖から青ざめているのもあるが、それ以上にとてつもなく嫌な予感が心を圧迫していたのが大きい。
現場を見に行くのは怖いし、あんな爆音が起きた以上、行ったその先に危険が待ち構えている可能性が高いのは分かっている。
けれど、この時何故か絶対に見に行かなければいけない様な… そんな使命感の様なものを感じていた。
その使命感が彼女を突き動かしているのか、紫陽の横を通り過ぎる様に部屋から出ていこうと。)
…待っ――……、全然大丈夫じゃないだろ…
(呼び止める間もなく彼女が部屋から出ていった後、困ったような顔で一つ息を吐く。
顔色は青ざめていたし、声も何処かいつも通りじゃなかった気がする。
小さく後の言葉を呟けば自分も急いで彼女の後を追って――。)
待てって…、落ち着け。何があるか分からないだろ、…先に俺が行くから。
(普段外に出ない彼女に比べれば足は速い方だろう。目的地まで後少しの場所で彼女に追いつけば、彼女の腕を掴もうと。
まだ爆発音を起こした犯人がいるかもしれない、また爆発が起きるかもしれない。そんな状況で彼女を先頭にする訳には行かないと判断して、後ろに回れと言うように目配せする。
彼女に落ち着け、なんて言ったけれど。自分も鼓動の速度は増していくばかりで。)
はぁ… はぁ… 分かったから。
(言うまでもなく、運動能力が壊滅的な彼女はあっという間に追いつかれ、彼に腕を掴まれる。
全速で走ったからか、息切れをおこしていて完全にバテている様子。
とりあえず、掴まれている腕を振りほどく様にして彼の後ろへ移動しようと。
向かった先にどんな光景が待ち受けているのだろうか? それは分からないけれど、目的地が近くなるにつれて嫌な予感がどんどん大きくなっていって。)
……っ。
(彼女が後に回れば、ゆっくりと歩き始めて。部屋に近づくにつれてツンとするような臭い
や煙に少し咳き込みながらも。
辺りには数名の人…彼等も又同じように音を聞きつけて様子を見に来たのだろう。
これだけ人が集えば、流石に安全か、と周りを気にする事無く天賀谷の4つ隣の部屋の前まで進んで行けば、開いた扉の中を見て立ち止まる。
爆発の衝撃で開いてしまったであろう扉から見た中の様子は悲惨な有様だった。
個室の天井に付いていたスプリンクラーのお陰で火の勢いは収まっているようだが、黒く焦げて変わり果ててしまっていて。そして何より…人がそんな中に倒れているのを見てしまえば呆然と立ち尽くしてしまう。
誰がやったのかとか、どうやって爆発を起こしたのかだとか、色んな疑問が渦巻くが、一先ずくるりと後ろを振り向き。)
……天賀谷は戻った方がいい。
(彼女にこんな有様の中を探索させるわけには行かないだろうと、様子を伺いつつそう声をかけてみて――)
…嫌だ。絶対に戻らない。
それに、何故か分からないけれど、この状況を見ておかないといけない様な気がするから…
(紫陽の目をじっと見据えて、そう答える。こうなってくると、今の彼女に何を言っても無駄だろう。
正直、まだ恐怖はあるけれど、このまま現場を見ずに帰るのは、どうしてもしたくなかった。
なお、紫陽が立ち塞がる様に部屋の前に立っていて尚且つ身長差の関係もある為、彼女には室内の様子は見えていないが、そこに何があるのかは流石に察しがついている様子。
この時、嫌な予感は部屋を出た時以上に、最高潮に達していた。ただ、その予感が外れている事を祈るしか出来なくて。
しかし、それも部屋に足を踏み入れた瞬間に、嫌な予感が現実となって目の当たりにする事など今は知る筈もなく…)
はあ……分かった。
(どうせ、これ以上言っても彼女はこの部屋に立ち入るだろう。観念したように溜息をつけば了承する。
先程数名が部屋に入っていたが退出したのを見計らい、現状外から様子を覗いている人しか居ない事を確認すれば。その合間を縫って中を調べようと、先入ってと彼女に声を掛け後ろに下がる。中には誰も居ないだろうし、危険があるとすれば背後だろう、とそんな彼なりの考えで――彼が退けば部屋の全貌が見えるだろうか。)
………。
(中へ入ると、そこには予想していた通りの光景が広がっていた。
室内に微かに残るアルコールの匂いと、それ以上に鼻を劈く様な血の匂い。そして、その真ん中に横たわる黒焦げになった人物…。
死体があるのは予想出来ていたので、以前の様に口を抑えて蹲るなんて事はなく。
これで、死体を見るのは二度目だ。それが影響しているのか、既に死体を見るという事に耐性がついてしまっていた。
目の前の光景も恐ろしいが、その一方で自分に付いたその耐性をも恐ろしく感じている。
そして、先程からずっと感じていた"嫌な予感"の正体を確かめるべく、黒焦げの死体の方へ近づくと、腕輪を起動させる。
…これを全部夢だと思いたい、現実だと認めたくない想いからか、腕輪を終了させては起動させてを繰り返してばかり。それ位に衝撃的でにわかには信じ難い事実だった。)
日菜子…? 嘘だよね…?
(腕輪を何度も確認しながら呼び掛けるも、返事が返ってくる事は勿論なくて。
ただ、彼女が腕輪をポチッポチッと弄る音だけが虚しく鳴っているだけにすぎず。)
(彼女の後ろについて中へ入れば、更に濃くなるその酷い臭いや空気に思わず手で口を塞ぐようにして。辺りを見回すも酷い有様。黒く焦げ付き、何かガラス片のようなものも落ちている。…そしてその奥には先程外から見た死体。
死体を見た後にちらりと、彼女の様子を見ようと――初めて出会った時は大ホールで死体を見て蹲っていたっけ。また蹲って動けないんじゃないだろうか。そんな心配をしていたけれど…予想は外れて。
彼女は蹲る事も無く、それどころか死体の方へ近付き何やら腕輪を操作している事に気が付けば。)
…おい、大丈夫か?……日菜子?
――天賀谷、一旦部屋へ戻ろう。
(近くへ寄っていけば、同じようにしゃがみ込んで彼女の顔を覗き込むようにして伺う。
そして彼女が呼び掛けるその名を復唱してみるけれど。…名前で呼んでいるという事は知り合いだろうか、仲の良い友人だったのだろうか?
なんと声をかけるべきか分からず、腕輪の電子音が悲しげに鳴り響くのを少しの間聞いていたが――。
こんな所で一緒に悲嘆に暮れている場合ではないと判断し、いつもの調子とは違う小さく慰めるような声で言葉をかけて。)
………ねぇ、嘘だって言ってよ?
『私はちゃんと生きてるわよ。』と言って。お願いだからさ…
(もはや紫陽の声は届いていないのか、何度も何度もそう呼び掛けて。勿論、その間腕輪の電子音も止む事はなく。
彼女の… 日菜子の死など信じていない筈なのに… にも関わらず、瞳からは大粒の涙がポロポロと溢れ出てきて、止める事も出来なかった。
昨日、BARで飲み会という名の女子会をしていた仲だ。あの時間は、毎日が同じ事の繰り返しで、まるで抜け殻の様な生活を過ごしていた彼女にとって、最も楽しい時間だった。
『此処を出たら、友達になりたい。』とこんな状況ながらに、純粋にそう思っていたのだ。
だからこそ、今の彼女にその死を受け入れる事など出来る筈もない。寧ろ、"その死を受け入れて、今すぐに立ち直れ"と言うのはあまりにも酷な話なのかもしれない。)
っ……。
(痛々しい彼女の様子に口を閉ざし俯いて……昔の自分を見ているような気がして。いや、今の自分でもあるのかもしれない。
二年前、母親の訃報を聞いた時、その死をまともに受け入れられなかった故に事故や事件を調べ始めた。二年前の事件を追っている今だって何処か心の中で……だから、彼女にそう簡単に死を受け入れろなんて言えなかった。本当は側に気が済むまでずっと居させてあげたかった、けれど。)
…天賀谷。天賀谷!この場にずっと居る訳にもいかない。いつ、何が起こるか分からない。もしかしたら、また爆発する可能性だってあるかもしれないだろ。
……辛いのは分かる、けど一旦ここを離れよう。
(先ずは。先ずは、自分の命が最優先だろう。
俯いていた顔を上げて、彼女の両肩に手をかければ、死体に向いている彼女の身体を此方に向けようと。そして名前を強く呼べば、ここは危険だと言う事を伝えて。
これ以上、こんな煙たい空気やら煤を吸いこんでしまえば身体だってもたないだろう。どうにか…どうにか彼女を外へ連れ出さないと。)
でも… でも… 日菜子が…
(身体を紫陽の方へと向けられる。そこには、涙でグシャグシャになった彼女の顔があった。
勿論、その涙は今も止まることはなく、ポロポロと流れ落ちて、頬を伝っていく。
また再会出来ると思っていた。けれど、こんな形で再会するなんて思ってもみなかったのだ。
この状況で生きている可能性など微塵もないのだが、それでも彼女はまだ日菜子が生きていると思いたくて。
やがて、煙たい空気やら煤を吸い込んだ事が原因なのか、『ゴホゴホ…!』と苦しそうに咳き込む。)
……ああ、分かってる……
――っ!大丈夫か?立てるか?
天賀谷にこんな所で倒れられても困る、それに……彼女だってそんな事望んでいないと思う。
(涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔を直視する事が出来なくて、少し目を逸らしてしまう。かけられる言葉も無くて、分かってる、としか言えなかった。
――彼女が咳き込むのを見れば、困惑気味の表情を浮かべ。泣いて体力も消耗し、更に煙も大きく吸い込んでしまっている…彼女の限界も近付いてきているかもしれないと感じ。
重い腰を上げて立てば彼女も立たせようと手を差し出す。以前の大ホールでのように拒否られれば、多少強引にでも腕を握って立たせようかと考えもしていて。
後の言葉に続けた彼女というのは、星 日菜子の事だろう。星がどのような人物だったか知る筈も無いけれど、彼女達の関係性を考えれば…星はここで天賀谷が倒れてしてしまう事など願ってもないだろうと。)
………そう、だよね。私がこんな所でいつまでも、泣いていたら駄目だよね…。
(本当は分かっていた。けれど、認めたくないという想いから、ひたすらに現実逃避を繰り返していたのだ。
確かに、彼の言う通りだ。私がこんな所で倒れてしまえば、天国にいる日菜子が悲しんでしまうだろう。ならば、今の自分に出来る事は、辛くても前を向いて生きる事しかない訳で。
苦しそうに声を出し、恐る恐る彼の手を取ると、そのまま立ち上がろうと。
まだ完全に立ち直った訳じゃないが、ほんの少しだけ気力を取り戻した様子。)
……ん。
(差し出した手を取って貰えば、力を貸すようにして彼女を立ち上がらせる。
もし叶うならば其の儘手を握るようにしてその部屋から出てしまおうと。
部屋から出ると、まだ其処にいる数名の人。周りの目を気にする事も無く、人をかきわけるようにしてその場を離れれば天賀谷の部屋まで足を進めて。
少しすれば扉の前に到着し、そのまま扉を開けて部屋の中に一緒に入ってしまえば。)
…泣きたいなら、ここで気が済むまで泣けばいい。
此処なら人にも見られないだろうし、死ぬ事も無い、安全だから。
……俺も、母親が亡くなってるから分かるよ、天賀谷の気持ち。
(部屋に入れば、先程手を握れているならば手を離し、くるりと後ろを振り向いてそんな事を伝える。この場所でなら、鍵がかかるし、先程の部屋のように空気も悪くない。それにここの方が思いっきし泣けるだろう、なんて考えて。
後に慰めるように自分の過去を話せば、ぽんぽん、と頭を撫でようと。
少しは落ち着くだろうか、……死にたい等と思わなければいいのだけれど。
話し終えた後、一人にしてあげた方がいいだろうか、なんて考え何も言わず彼女の横を通り過ぎようと。)
- 最終更新:2018-02-28 21:02:27