赭愛ソロル

Chapter1


平穏で代わり映えの無い日々は、突如終わりを告げた。それは平和なんてこの世界に無い事を表しているかのようであった。


目を覚ました時、少女は見知らぬ場所に横たわっていた。辺りにはこれまた見知らぬ人間が数十名。確かに昨日は自分の家のベッドに入ったのだが。と、ゆっくり起き上がり辺りを観察する。意外にも冷静なのはまだ現実を認識出来ていないだけかもしれない。少女他、数十名が今いる場所はホテルの大ホールのような場所でかなりのスペースがある。だが、広いだけで殺風景なので本当に集まるだけの場所なのだろう。

と、突如キーンという高い機械音が脳内を貫く。僅かに顔を顰め右耳を抑えると、その不快音は声へと変換される。


《……やぁやぁ、皆さんお目覚めでしょうか?貴方達はこの脱出劇の主人公に選ばれました。
もう勘の良い貴方達なら、お分かりでしょう。これから貴方達にはその舞台より脱出して頂きます。

脱出の方法は至って簡単、右手に嵌められている腕輪に“答え”を入力するだけ!ふふふ、簡単でしょう?
…只、きっとこの中には頭の良くない方々もいらっしゃるはず。その方々の為に特別にもう1つ!脱出の方法を授けました。
それは、誰かを“殺す”事。殺人を起こした後、腕輪を死人に向けて認識しておいて下さい。
頭脳が無くとも殺ろうと思えば誰にでも出来る…とても簡単な方法だと思いませんか?私別に人を殺したい訳ではないですよ?仕方なく…仕方なく解けない方々の為にと思い考えたのです……》

理解が追い付くのに数秒かかった。閉じ込められた?何処に?脱出するには人を殺せ?分からない。だがろくでもない思想を持った人間の悪意だけははっきりと感じ取れた。更にその機械音は言葉を紡ぐ。

《⋯⋯⋯開始から一定時間たつと、乗船口の電力が入り正解の答えが入った腕輪、殺人履歴のある腕輪を扉にかざせば自動的に扉は開きます。
ただし、かざした時点で答えが間違っていたり…殺人履歴も答えも無かった者、扉の電力が切れる迄に腕輪をかざさなかった者は死が訪れます。
後、他人に答えを教えては面白くないのでそれも失格と見なします。
ちなみに貴方達には爆発装置がついています。》

今、なんと?

《そうですね、信じてもらう為に一人生贄を……ではそこの部屋の中央に立っている派手な少女にしようか。
不幸だったね。サヨウナラ!

――さて余興はお終い、記念すべき第一問目を発表しよう!
“私”は何処にいるでしょうか?

では皆さんの健闘をお祈りしています!》

破裂音。いや、風船が割れるような清々しい音ではなくトマトを生のまま握り潰したような、簡潔に言うと人の命が消える音。その音と共にホール中央付近に居た少女が爆散する。血や内臓が飛び散り、辺り一帯に死の色を撒き散らす。本当に右腕から爆発したようで、影も形も無くなっていた。状況を漸く飲み込めた周囲の人間達は、泣き叫ぶ者、激怒する者、生々しい死体を見てしまった為か、嘔吐する者、その場に座り込んでしまう者、誰一人として正常な状態では無い中、少女は軽く頭に手を当て俯いただけであった。

「はぁ.........」

軽く溜息をつくとポケットから懐中時計を取り出す。ベンソンの金色に輝く蓋付きのタイプで幼い頃父に譲って貰った記憶がある。なんでも、アンティークな代物だそうで1825年に作成された物らしい。彼女は蓋の開閉音に魅入られ愛用していた。時刻は......7時半過ぎと言ったところだろうか。少女は壁にもたれ掛かると再び辺りを見回す。既に残っている人数は半分程度に減っており、まだ泣いている者、落ち着きを取り戻した者、冷静にこの状況を把握している者、大体この三種類であった。

「.........腕輪、か」

ふと右腕に巻き付いている腕輪に目をやる。無闇に外そうとしない方が良さそうだ。某社の腕時計型携帯電話の様に小さなデバイスが取り付けられ、この建造物(?)のMAP、自身の情報がインストールされている様だ。因みにMAPを確認した所どうやら今現在彼女がいる場所は船の大ホールという所らしい。海の上か、停泊しているのかは分からないが。取り敢えず、この船の探索は後回しだ。今は少し休みたい。

「........................はぁ」

また小さな溜息をつき瞼を閉じる。こうゆう時こそ頭を整理し、冷静を保たねば真っ先にこの狂気に呑み込まれてしまうだろう。いや、ただ単にもう一度眠れば、いつもの現実に戻れると思っただけかもしれない。

  • 最終更新:2018-02-18 00:38:03

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