繰夢夜x黒田
Chapter1
2日目 ― 繰夢 夜美 → 黒田 紫陽 以下交互
「〜〜〜〜♪」
図書室での少女との邂逅の後、日も変わってから他にヒントでもないだろうかとほかの部屋なんかも見て回っていたのだが、そこで重要なことをわすれていたことに気づいた。
そう、食事である。
今まではこんな状況に突然放り込まれたショックで忘れていたのだが、一晩寝たからだろうか、体は正直で、腹の虫が鳴いてしまって。
腹が減っては謎解きできぬ、なんてことわざはないものの、空腹のままでは何をやってもうまく行きそうにもないため、調理室にて、有り合わせの食材で適当に料理をしていたのだ。
鼻歌交じりなのは不謹慎かもしれないが、まだ謎が解けないということからの焦りを、無意識に誤魔化しているものなのかもしれない。
(二階堂と出会った少し後。彼女に食料を個室へ持ち込むといい、なんてアドバイスをしたけれど、ふと自分自身が補給するのを忘れていた事を思い出し。
別に持ち込まずともここへ来ればいいのだが、喉が渇いてここまで来るのは面倒だ、とそんな考えで再びレストランへと戻ってきて。
そのまま調理室へと直行しようとするが…中より鼻歌が聞こえれば警戒するように少し立ち止まって。)
……子供?
(中をそっと覗き込めば、そこに居た少女の姿を見て呟く。
あんな子供まで参加しているのか、なんて鬱々とした気分になりつつも、鼻歌の正体が少女だと分かれば中へと入っていって。
こんな状況なのに脳天気なのは、理解していないのか何なのか…遊びだと思っているんだろうか、なんて思いながら。
奥にある冷蔵庫に向かおうと、料理をする少女の後ろを特に挨拶もする事無く通り過ぎようとして――)
「……初対面で子供、なんて少し失礼じゃないかしら? わたしこれでも18歳よ?」
黒田がちょうど後ろを通り過ぎていくタイミングで、ちらりと横目でそちらを見ながら呟く。
確かに、私みたいな見た目で、料理中に鼻歌を歌っていたら子供と勘違いされるのも仕方がないとは思う、というか慣れたのだが、それでも気分が良い訳では無い。
失礼しちゃうわ、なんて頬を膨らませながら、再び料理に戻り、卵を混ぜていく。
なんだ聞こえてたのか。
……悪かった、まさか18歳だとは。
(ちょうど後ろを通りがかった時、少女の呟いた言葉に反応して立ち止まれば。
先程とは近い距離にいるが、やはりどの角度から見ても幼い顔つきの彼女は子供にしか見えない。
だけれども、それが彼女にとってコンプレックスだったとなれば申し訳無い事を言ってしまった、と感じて素直に謝罪の言葉を述べて。
本当は…人が居たものだから、冷蔵庫にある水だけでも取ってすぐに立ち去ろうと考えていたけれど。話しかけられれば気にする事無いか、なんて思い、冷蔵庫へ向かうのを中断して彼女が使うコンロの隣にある戸棚のパンを持っていく事にしようと、隣へ移動して。)
…こんな時でも料理なんて偉いんだな。
(戸棚の中から幾つかのパンを取り出している最中。こうやってすぐに食べられる物を探している自分とは違う彼女にそんな言葉を投げかけて。
…いやそもそも料理が出来ないのもあるけれど。)
「言ってみただけよ、気にしないでいいわ」
素直に謝ってくれたところを見れば、悪意が言った訳ではなく単純にそう見えたから、というのはすぐに分かり、それならばいちいち怒っている必要も無いと、軽く微笑んで謝罪を受け入れる。
「……こんな時にでもお腹は減っちゃうんですもの、何か食べてないとやってなんていられないわ。
それに、パンとか食べても少し味気ない気もするもの」
おそらく姉ならば「手っ取り早く済むインスタント麺にしようぜ!」なんて言い出すのだろうが、それでは栄養が偏ってしまい、それで体調でも崩されたら本末転倒で。
それならば自分が作った方がいい、という考えからの料理だった。
それに、こんな時だからこそいつものように料理していた方が、気も紛れるというもので。
「あなたにも、何か作りましょうか?」
隣でパンをガサゴソと漁っているのが目に付けば、それじゃあ味気ないだろうと、なにか作ろうか、と提案してみる。
まぁ…確かに何か食べないと力はつかないし、美味しい物を食べれば気も紛れるかもしれないな。
……折角だけど、遠慮しておく。朝食さっき摂ったばっかでさ。これは夜食用、流石に夜中こんな所を出歩くのは嫌だから。
(肯定するように少し頷けばそう言って。
こんな状況で…あの死体を見てしまった二日目で食欲なんて湧き出て来るはずもないけれど、何も食べない、というのはとても危険に思える。
体が弱れば、弱る程…殺人を犯そうとしている奴等の恰好の的となるだろうから。
現状、そのような素振りを見せる人間とは出会ってないのだけれど。
その後の彼女からの提案には、首を振って。先程食事を取っていなければ是非にでも作って貰いたかった。
しかし、流石に普段のような量の食事を摂る事は難しくて。先程のパンだけでお腹は膨れてしまっており。)
「あらそう? 残念……」
既に食べてしまったというのなら仕方が無いのだが、それでもすこし落ち込まざるを得なかった。
基本的に私の料理を食べてくれるのは姉だけで、あまりほかの人に食べてもらったことがないのだ。
若しかしたら初めての人だったかもしれないのに……なんて柄にも無く考えて。
「それなら、気がむいたら、朝のこの時間くらいにまたここに顔出してちょうだい?
多分、またここで作ってると思うから」
…ん、分かった。けど、あんまり同じ時間に同じ場所に居るのも良くないと思うから。
……毎日同じ行動してると、殺しやすそうだし。
(なんて、気をつけてと忠告する為に言ったつもりが…意味を間違えれば、相手に恐怖心を与えてしまいそうな言葉になってしまって。
勿論彼女を殺す気なんて一切無いけれど。
只、少し手料理は食べたい気もする。ここへ来る前も料理が出来ない故にカップラーメンやら、菓子パンなど手軽なものしか食べていなかったから。
まぁ、会った時はよろしく頼むよ、なんて後に付け足せば。)
じゃ……、そろそろ行く。気をつけるんだぞ。
(何処かやはり小さい子に向けるような言葉遣いで、別れの挨拶を告げれば。
戸棚に入っていた常温の水1本とパンを3つ程持ってその場から出ていこうとするだろう。)
- 最終更新:2018-02-28 15:04:14