碧x廣田
Chapter1
1日目 ― 碧 麟(青龍 結麒) → 廣田 美弥子 以下交互
(バーの扉を開く。地図を見て、まず決めたことはすべての部屋に目を通すこと。たとえば、後半。結局殺し合いになったとして、あるいは殺されそうになったとして。答えを既に打ち込んだ自分にはそれにわざわざ対抗してやる必要は無い。殺すほど切羽詰まっているのなら、逃げていればタイムオーバーになるだろうし。故に、様々な部屋の間取り、構造を調べるために順に見て回っている)
…………いいなぁ、こういう舞台[ステージ]
探偵でも演じてみたいもんだ
(頭に浮かんだのは、黒蜥蜴。序盤の、BARで黒蜥蜴と明智の対面シーン。探偵はBARにいる、とはよく言うが、実際酒のあるところには情報も集まる。導入としては便利なのだ)
「……なんだ。みんな、こんな時だというのに、謎ときとなれば探偵が好きと見えるね。」
そこに明智もホームズもいなかったが、英国とは似ても似つかない、よれよれの白衣を背負ったワトソンならいた。
ヴェルモットの瓶を横目に見ながらアイスだけでジンを飲む、チャーチル・マティーニを楽しみつつ、手持ち無沙汰なのか、酒の銘柄を物色し、そのついで、という位に、くすり、と小さく笑いながら、来客に振り返る。
酒なんて飲んでる余裕はないのか、他に人はなく、孤独を楽しむのも、少しばかり飽きが来ていた所だったこの女には、顔見知りの登場は渡りに船であった。
「お?カティサーク、スパニッシュ・シェリーバレル。12年ものだ。呑むかい?スコッチだが。
…わざわざ高いのを揃えてくれているらしいしな、余らせるのは損だと思うんだが。」
椅子を引き、隣に座るよう促しながら、グラスを取り出すついでに、目を僅かに瞬かせ、ボトルを取り出す。勝手に人の酒を決めるのはいかがなものかとも思うが、酒の席では無礼講、とも言うから、悪いものを出さない分にはある意味マナーに則っているのかもしれない。
あー、いや
酒は喉が焼けるから、遠慮させてくれよ
次は、ベルサイユのばらなんだ
俺たちの歌劇団を有名にした、俺たちにとって何より特別なそれ
だから、遠慮させてほしい
(そう、星条海斗や、北翔海莉、十輝いりす、いわゆるトップや2番手3番手こそを選ばれ、行う、あの何より大切な……北翔海莉引退しちゃったし星条海斗も引退するとか言い出してるけどね!!中の人もう泣きそう。リジーしか残ってないじゃん)
謎解きといえば探偵だろう?
明智小五郎に、ホームズ、
あぁ、相棒なんかは探偵ではなくて警察だったね
(するするなの上がるそれは、宝塚で舞台化を行ったもの。彼女にとって馴染みが深いからこそ、その名前はためらいがなく出てくる)
「そうか。なら私が飲もう。
ロマネ・コンティは押さえたから、あとはなんでも良いしな。」
本当は自分で飲みたかったのではないか、と言われてもおかしくない位あっけなく、別に頓着するでもなくそう呟いて、残りのジンを飲み干しながら、ボトルの二本目を開ける。蟒蛇も蟒蛇だろう。なんせ、ボトル2本を飲み干し、今3本目を開けて、未だに顔色一つ変わっていないのだから。
「どうだい?そちらの首尾は。
全く、色々ありすぎて疲れたよ私は。」
顔見知りを見た安心感からか、または、アルコールで気分が良くなったからか。ほんの少し甘えたような声でそんな愚痴をこぼすと、伸びをする
俺は我が儘嬢を捕まえたってところ
仮にも男を名乗るなら、娘のひとりや二人後に庇ってないとカッコがつかないだろ?
って言うのは冗談としてだな
ああいうのは崩れやすい
普段強がってる女が、突然のことには対応出来ない、なんてよくある話だ
そして、そういうのは何より恐ろしい不確定要素になる
だったら、多少こっちが被害被っても後に抱えとくほうがマシだろうよ
(碧はなにもフェミニストという訳では無いのだ。いつだって冷静で、その時の最善手を探している。それが正解かはこの際置いておいて)
「なるほど。さしずめ、姫様と王子様、という感じで、見栄えは良いんじゃないかね。
私の方は…そうだな。少しお子様な、シャーロック・ホームズを拾ったよ。まんまとワトソン教授にされてる。」
他でもない熟練が可能とする、煙のような独特の香りと、アルコールの余韻の霊妙な旋律に、感性のすべてを委託する、官能にすら似た感覚を覚えながら、女は、隣の劇団員をからかう様に嘯いては、こちらも組んだ者同士の奇特さでは変わらないのに、えもいえぬ誇らしさの混じった苦笑し、ふぅ、と黄金色に濡れた吐息を漏らした。自分の安全圏を確保しているからか、なんとなく、その外側に人間がいるのだということが、おかしく思えた。
子供の頃、友人の想い人を知った時にでも、多分似たようなことを思った記憶がある。わざと思わせぶりなことを言って、答えを知りながら、さも次質問すれば教えてやるような面をして、何回も透かしてやるような、あれだ。
状況は違うが、あの、聞いた人が知りたがるような秘密の秘匿による、優越感。間違いなくそれと同種な感情が胸の内にあった。
幼さと残忍さは紙一重だと、つくづく思う。こういう、人の焦りを笑う不道徳な遊びは、悪党になる前に全てやり尽くしているものなのだ。不思議とこれに何の嫌悪もなく、真理に触れたような充足を持って、腑に落ちていた。
「謎解きの方は…万が一があると嫌だから、不可侵にするとして、この船は次に、どこに向かっているんだと思う?」
昔から都内に住んでいたからか、海は、よく見たことがあった。
網戸を煽る塩味の風。
踊るように上下に乱舞する波涛。
雄大な力は、家に居場所を見いだせなかった女に、いつも慈悲の手を差し伸べた。叫べば潮騒がすかさず返事をしてくれた。
が、真っ暗闇の棺桶からは、それはもう見えなくなる。何かすぐ真下に巨大な存在がいて、それが身体を揺すって船底を弄んでいるのではないかとすら妄想できるほど、視覚から隔絶された自然とは得体が知れない。
けれども、彼らは不変故に一定である。この世の道理として、海原からは沿岸に着くのが妥当だ。
そこがすっかり独りになった島でも、大陸の横っ腹でも、出られる以上は陸につかねばならない。
二問目、は、船から出るわけだから、間違いなくまた別の場所で行われるだろう。だから、まずはそこがどんな場所かを考えるのも、悪くないように思えていた。
トップスターでもない俺に、王子様は役が重すぎる
せいぜい騎士様さ
姫を守って、守り続けて──最後は王子様にさらわれるのを、笑顔で見送る、そんな、騎士さ
俺は──オレは、オウジサマになんて、なれやしないんだ
(皮肉げに、けれど明るく。諦めたように、けれど楽しげに。相反する感情を、けれどひとつの表情に込めて。だって、オレは、それをみとめたけれど。俺はそこじゃあ、満足しないんだ)
次に、か?
まあ、次のステージってのが妥当だろうな
コテージ、なんて優しい場所に連れてってくれるとは思わないが
(こんなくだらない、何番煎じかもわからないステージは、けれど煎じ方でパターンがある。想像するにも、種類が多すぎて。あぁ、足りない足りない。知識も、時間も、俺自身の思考力も)
「謙遜の割に、十分良い役をとるんだね君は。…なんて言ったら揚げ足取りが過ぎるか。」
絵本なんて読んだことはついぞなかったが、歴史上の人物なら、こういう立ち位置の人間は大いに持ち上げられるのが世の常だし、漫画だったら間違いなく、人気投票で一位を取るのはこういう奴なのである。こんな無遠慮な言葉を吐くつもりは毛頭なかったが、酒が思考と声帯を真っ直ぐに繋いでしまうのはよくある話だ。それを踏まえれば、思った以上、咎められても無理からぬ事であるし、隠し立てもある意味無粋であるか。
「きっと、確かに優しい場所なんかじゃないだろうが、なんでだろうかね。次の場所を考えても、更にその先を思っても、希望だけはまだあるんだ。
死ぬのは怖いし、人殺しなんて論外。死体を見るのだって吐きそうだよ。けれど、何故だろうな。なんとなく、越えていける気がする。また手を引いていってくれると確信してしまっている。
そういう相手と私は出会ったんだろうな……悔しいが。」
希望、なんてものをこれまで抱いた試しがなかったはずなのに。
少しも前に進もうとはしなかったはずなのに。
あの強引な相棒のせいだ。力一杯あんまり引くから、まだ感覚が残っている気がする。
けれど、こういうのが絆でもあるのだろうとも思えた。
完成された、自然な死。有無を言わさぬ停止に対する危険な好奇心が未だに、深い部分でまだ埋火のように燻り、恐怖心や躊躇というものにモヤをかけているのは、間違いないだろう。
けれども、このあとどうするかなんてなんにも考えてやいないくせに、出た後に全てを懸けているような気がするのは、先を目指してみようとする、冒険者の一歩であった。永遠の命と思って夢を持ち
今日限りの命と思って生きるんだ。とはジェームズ・ディーンの言葉であるが、命の切迫を背景とした、尋常のものよりも硬い一蓮托生は、時に、そういう生きる為の理想像に、進むべき道を幻視させることもあり得るのだろう。
「これが、二年前の失踪と原因を同じくするのなら、こんなふうに思う人もいたんだろうか。」
そうだな、いい役だ
本人の感情さえ、抜きにすれば
その役を割り振られた方は、たまったもんじゃあないんだぜ?
ずっと練習してきた相手役が、ある日突然
トップ娘役になって、俺の相手役じゃなくなる
でも、それは十分喜ばしいことだ
だから、俺は彼女に拍手を送ってやらなきゃいけない
彼女の、笑顔のために
(どれほどファンから人気が出ようとも。どれほど美しい役柄だとしても。そこに本人の感情は考慮されない。その結果、本人がしに手を伸ばしたとしても、その死すら美化され、苦悩は輝きに埋もれてしまう。輝けば輝くほど、それは本人から遠ざかる。なんて理不尽で、傲慢な光景か)
ここからは、タカラジェンヌの碧麟ではなくて、青龍結麒、一個人としての見解を言わせてもらおう
人間そんなもんさ
人間は生きるためにほかの人間を蹴落す
チャンスを掴めなかったものほど、その足に力が入る
随分それが見やすくなった、それだけのシステムだ
可視化が命のやり取り、という点は頂けないが、しかしこれはそれ以上でもそれ以下でもない
廣田さん、だったか
随分と詩的な言葉を並べるが、どれほど美しく飾ろうとも、切り詰めてしまえばこのステージは日常の延長にあるだけの[点]だ
手を引いてくれる人を見つけたのなら、きっとそれは、気づいていないだけで、日常の中にもいたはずだ
信じられる、と思ってしまったなら、きっと、日常でも誰かを信じてしまっている
悔しいと思うそれは、当たり前すぎて、今まで見えていなかっただけだ
もしも戻れたなら、人間関係の整理をおすすめしよう
見えないものに、気づけるように
(なんて、言葉をつらつら並べて。これが本当に日常の延長なら、オレは、誰も信じていないことになるじゃないか。最初から、上の人間をけ落とすことにためらいがない、自分はそういう人間だと、自白しているようなものだ。間違ってはいないのだろう。オレは、真実そんな人間なのだろう。けれど、俺としては、その解答は、きっと不正解。だからこれは、オレ一個人の見解だ。碧の喋っていい言葉ではないから。オレは、[オレ]と[俺]を随分都合よく、そして、汚く使い分けるようになったものだ。こんな話、ステージには映えねぇよ)
「はは、たしかにその通りだ。
随分辛口だが、嫌いじゃないよ。
むしろ好きな部類だ麒麟さん。
あーあ、慣れないことは言うもんじゃあないね、本当に。」
道理の及ばない極限に来ると、いつもなら見えないものが見えていて、見ていたはずのものは見えなくなっている。この辺りに、人間という生き物の究極的な浅はかさを思って、笑った。
何とも滑稽な話ではないか。人との繋がり、なんて普段は命に関わらない。だから、別に見ようとはしないし、必要ないから人を傷つける。けれど、必要になってきてからは、身にしみて大切にしようと思ってしまう。そしてまた、必要なくなれば、恐らくまた、瞳の裏側にひっくり返って、網膜の後にでもすっぽ抜ける。それくらい、容易く揺蕩うものなのだ。
軽く、触れても痛くない代物なのだ。だから、今は愛おしくてたまらなくも思うのか。
「もう呑んでしまったが、これじゃあ騎士様っていうよりは、ドライ・ジンって所かな。ヴェルモットがあれば丁度良いくらいか。マティーニを作るんなら、本当に上等だと思うよ、君は。」
からかい4に、微かな助言を1。
隣の芝生の話と同じく、先程思った感慨と等しく。
持たないものや疎遠なものほど、人間良く見えるものなのである。
だから、アドバイスというのは大概、自分に本質として欠けているものを教えている場合が多い。という事実を出せば、ひやりとする人間は山ほどいるだろう。
だから、そのお礼に同じようなことを言ってやったとして、別に問題がある訳では無い。
再び、燦然と煌めく黄金色をグラスに注ぎながら、邪道ではあるがオン・ザ・ロックでもう一度楽しむことにした。香りが少し劣るが、代わりに味が透き通って見えるような感じがするから不思議である。これでは、図らずも言い得て妙ではないか。
さて、閑話休題。ちなみに、飲もうとしていた残りは、ヴェルモット一本。こちらは夜にでも飲むとして、次の場所で酷い目を見ないように、保存が効くものは貰っていくようにしようと女は胡乱げに思い浮かべた。ベッドくらいはあるだろうから、布団のワタを抜けば袋くらいは作れるだろうから、運べる文は用意しておかなければ、とも。
「……っと、まあ、言葉遊びはこの辺にしよう。反省するには、知恵より先に命がなくちゃいけない。まあ、これはただの推理なんだが、さっきも言ったように、二年前の失踪。これと関係があるんじゃないだろうか。
だいぶ消えた人数がいた割にろくな証言も出ないで終わってしまったようでね、職員会議でも、生徒に呼びかけたりすべきか色々ゴタゴタがあったもんだが、これなら合点が行く。最後は殺して出たから、生き残りは誰も話せなかった。という話なんじゃないかな、と思ってね。」
二年前の失踪事件。
昨日のような明日が、模造品のように繰り返されていくだけの日常に唐突に生まれた亀裂は、未だに鮮烈に覚えている。
学校では、誰かが休む度に連絡したりするハメになってパニックだった覚えがあるし、何より。それ以降は何事も無かったように”平和”になった歪さは、尚更それの闇が深いことを知らせるには十分だった。現に自分は、失踪した事にでもなっているだろうか、その辺は誰かが勝手に決めてくれるとして、同じような条件なのは確かだ。要するに居なくなった証拠はあってもどうこに居るかが分からない、証言もない、という相似があれば、関連付けるのは無理からぬことで。
ご忠告、痛み入る
覚えておくだけ、憶えておこう
(さて、この忠告は結麒に提案されたもの。ならば、閉まっておこう。だって、ユウキはもう、出てこないから)
二年前、か
うちは音学生徒の方から数人出た程度で、俺は特に気にしていなかったな……
ただ、自分が殺さなかったとしても、切羽詰まったならば自分も誰かを手にかけていたかもしれない、という考えは、誰でも抱くだろう
そうなれば、誰も喋れない
(それは赤銅色をした鎖だ。自分もしていたかも、止めなかった時点で同罪だ、自身が実行犯である、様々な事実と、そして、[人の死に直面する]という感情で縛り付け、括り付け、人をぶら下げ、弄ぶ。舞台に描かれる恋物語ですら、どれほど醜く描かれようが、そんなおぞましい色は映さない)
今時流行らない、随分陳腐でありふれたシナリオだ
そして、ありふれているからこその、レパートリー
かえって先が見えないとは、随分と皮肉だ
「私が思うに、人間の長所というのはだね。どんなに恐怖しながらでも、他人の過去になら向き合える、先人の過ちを越えられる、という事だと思う。」
思わせぶりに、回りくどく。
まるで決断を迷うかのように、話は脇道から入った。
悠久の時を超え、無間地獄のように血を流しながら進んできた道のりを、女は少なくともこの船に居る誰よりも敬い、何度も何度も、目を背けず見てきたと自負している。だからこそ、引く訳にはいかない気もしていた。
教師らしい事なんていうのは露とする気はなかったが、一人の人間としてなら、戦える気がした。
それがつかの間の安息に彩られた、鍍金のように脆い極彩色の夢だとしても、挑もうとした思いを誰が責められようか。
「まあ、何が言いたいか、というとだ。また、柄にもないことを私は言うことになる訳だが――――
もし出れたら、私はこれまで起きたことを、全て包み隠さず知らせてやろうと思う。カウンターをくれてやるわけだ。この馬鹿げたことを考えたヤツらにね。」
この反骨心は、何も自分がされたことに対しての怒りからだけではない。これまで何度も、早く死んでしまえば良いのに、と思い続けた病床の妹に対する復讐心でもあった。てんでちんぷんかんぷんかも知れないが、これまで随分とひったくられていた、認識という幸福を、一挙に取り返してやろう、という意味で行うのもあるのだから、これまた律儀なやり方である。だが、不安はあった。
女は、確信していた。この黒い世界から出て、灰色にどよめく現実を直視するのは、恐らく相当な覚悟がいると。そして、多分。
生命の価値の限度を知らしめられた自分ではきっと―――――許せないものが生まれるだろう事も。
「シナリオに幕を下ろすなんて役は、……裏方がやるべきだと思うからね。仮に、私が土壇場で竦むことがあったら、そうだな。劇でも見せてくれないか。言ったか忘れたが、私はあの時、知らない演目の癖に、何も考えずに楽しめたんだ。こういうのを、見逃さないようにしなきゃあならないんだろう?生きて帰ったらさ。」
殺す覚悟を決めてしまった人にはなかなかどうして痛い言葉だが……
あぁ
俺が舞台に立つ限り、舞台に立つと、そう決めている限り、俺は決してそれを踏み外すようなことはしないさ
(覚悟を決めたことと、実行することは繋がっている。人が行動を起こすには、すると決め、そして、動くことが必要だ。しかし、決めるのは結麒で、動くのは麟ならば。そんな指揮系統をとる自分ならば。そんな人間としての常識は、何も考えなくて済むから)
だから、俺が舞台に立てる限り、君は、いつでも見に来るといい
舞台は、人々を勇気づけ、元気づけるためにあるのだから
俺は、そのために来る君をどうして拒めようか
「ふふ、ありがとう。また、見たいもんだね、本当に。
後、そうだな…出来れば、最初の頃聞いた我儘なお嬢様に、胡散臭い教師が、会いたがっていた、とでも連絡してくれ。」
目を伏せて笑った顔は、どうしても寂しげになってしまったかもしれない。生きて帰れたら、なんて今更、昨日の約束を今日取り付けるような、そんなようなものだ。
その位、このゲームは狂っている、と言っても過言ではない。
殺し合わせたいのではなく、わざわざ脱出をさせたい。その真意がなんなのか、それを解き明かせれば、或いは―――………―
「ホームズにワトソン。騎士と姫様がいれば、ほら。素晴らしい劇になりそうじゃあないか。
出てくれるかい、騎士様。」
噛み砕いて言ったら、同盟、であり、停戦協定、であった。
契約書も何も無いなら、形は大事だ。手のひらを放り出すように前に立ち、ゆっくりと頷く。
そう何人も組んでいたら本末転倒。敵対も強調も、過度に広げていくと、必ず綻びが生まれる。大日本帝国が教えてくれたことだ。
だから、なるだけ拡大はしない気でいたが、このくらいなら、構わないだろうか。
まいったなぁ、ソレ、騎士は死んでるんだよ
(宝塚の、シャーロック・ホームズを題材とした劇。それは、あぁ、死んだ騎士の残した謎を、姫が探偵に依頼する話だった。何の因果かめぐり合わせか。それがシナリオで台本だというのなら。 あぁ、舞台人形は、それに合わせて踊ろうか。きっちり、しっかりと。姫を守るために死に、そして、死んだ後も残した謎で守り続けた彼のように。だったら、姫を守るための伏線は、多く貼るべきだろう。この舞台は、相当なイレギュラーだから。差し出された手を握り返す。姫を守る役目は探偵に移り、けれど、探偵はきっと、姫の手を掴むことはないのだから、だったら、俺がそのために伏線を繋がなければなるまいよ)
「なら、二度も死ぬことはないんだから君は安全だな、羨ましい限りだよ。」
なんておどけて笑うと肩を竦め。
「……なんてね。私は食糧を確保しに行くから、また生きていたら会おう。まあ、私のことは、我らが顧問探偵がきっと守ってくれるだろうから別に心配はしなくて良い。当分は好きに動いていこう。その方が掴めるものもある。」
まずは私室を目指し走り出した。
- 最終更新:2018-02-21 18:31:17