田山x菜々宮
Chapter1
1日目 ― 田山 藍 → 菜々宮 千晴 以下交互
「えっと……救護室、は…此処?」
室内をキョロキョロとしながら珍しく単独行動をしている藍であった。
アイゼアに頼ってばかりで居るのも悪いと思い、探索に出ると言ったアイゼアに自ら申し出て単独行動で探索をさせて貰っている。
今回は救護室で、何かしらの傷を手当てする物を確保できればと思いながら、目的の救護室へマップを見ながら歩いていた。
そして救護室らしき場所の近くに近付いた。
「…ん~?声が聞こえた……気がしたような、気がしないような。
でも、したよね…?多分だけど…。」
(救護室を探す田山と反して、菜々宮は既に救護室の中に居た。
そろそろ此処を出て探索を再開しようと思考した次第、扉に近づけば人の足音が此方に向かっているのを察知した。
誰か怪我でもしているのだろうか?
その音を鳴らす誰かの目的地は、救護室でなく、その先の個室である可能性もあるのだが、まあその時は普通に探索を再開すればいいし……。
そう思って扉を開けた、容赦なく思い切り。\ドアバァン/)
「はうぁ…!?」
容赦なく思い切り開けられた救護室の扉に気付かず、よく分からない声を出して扉に頭を思い切り激突させて、その場に額を抑えて蹲る。
そして暫くしてから顔を上げて何が起きたのかと状況を確認すると、目の前に大きく開いた扉と、その向こうに立つ一人の影が見えた。
「…………、あ。」
(何時もぼうっとしている菜々宮が珍しく目を見開いて驚愕した。)
「これは…不注意というやつだね…。
じゃない…、大丈夫?ごめんね…まさかこんなに近くだとは思わなかった…。
痛まない?」
(自分が勢いよく開けた扉にごっつんこしちゃって、その場に蹲ってしまう女の子の前へしゃがみ込み、真剣に心配する。
救護室にはちゃんと救急箱はあったが、湿布は入っているだろうか…?
たんこぶになっちゃったら大変だ…。)
「うぅ…はい、私の不注意だったので……痛みも引いてきましたので…大丈夫です。
……ご心配をお掛けして申し訳ございません…。」
ゆっくり額を抑えながら立ち上がって、額を擦りつつも、ぶつかってしまったのは自分が不注意だったし、痛みも引いてきたので大丈夫だと伝える。
そして、心配を掛けてしまった事に頭を下げて謝罪をする。
「あ…すいません、救護室は何処か教えて頂けますか?
今のは大丈夫でしたが、これからの事を考えて何かあればと思って来てみたのですが…。」
そうだと思い、目の前にいる人物に救護室のある場所を聞こうと顔を上げて質問をする。
今ぶつかった扉が救護室の物とは気付いて居ない様子。
「そんなことないよ、私の不注意だよ…よしよし、よしよし…。
こちらこそ気を遣わせちゃってごめん…ね?」
(痛みは引いたと言ったけれど、心配や申し訳無さから相手の額を子供をあやすときのような手付きで撫でる。
確かに、感触的にはたんこぶは出来てない様で安心した。
なら痛みが引いたというのも本当…だと思う。
けど、彼女は何故か自分の所為だと話して私を責めないし…、若しかしたら気を遣わせて仕舞ったかも知れないと思って…謝罪する。)
「あー…えっとね、えっと。
救護室を探してる…んだね?
あのね、それなら此処だよ。
…何か怪我しちゃったの?手当てしてあげようか?」
(扉を開けたまま位置をずれて彼女が室内へ入れるようにする。
やっぱり救護室が好きな菜々宮は、何だか少し興奮したように話す。)
「え…いえ、怪我は大丈夫…です……。
…やっぱりぶつけた所、診てもらえますか?」
撫でられるとは思っていなかったので少々驚いたが、不思議と悪い気分では無かった。
そして顔を上げて救護室の場所の説明を聞いて、自分がぶつかった扉を確認すると、確かに救護室と書いてあった。
その後にも色々心配されたので、多分大丈夫だとは思うが一応診てもらう事にした。
「あ…名前言っていませんでしたね……。
私は、田山藍と申します…藍で構いません。
貴方様の御名前は?」
お願いしますと言おうとした所で、相手の名前を聞いていなかった事にした気付く。
そしてまずは自分の名前を名乗ってから相手の名前を聞く。
「…うん。
任せて。一寸でも悪かったら赤くなっちゃったり、青くなっちゃったりするかもしれないしね…。
まあ、とりあえず入って入って~。」
(それは非情に申し訳無い。
だからと言って無闇に頭に湿布を貼らさせるのもどうかと思うから、判断する必要がある。
だが此処で立ったまま診察というのもアレだ、実際の保健室みたいに、室内に入ってから診てみる事にしようかと…。
けど現実的には、中は救護室だから、冷蔵庫やらフカフカのベッドやらは無いんだけど(ベッドっぽいものなら有るが、二つも)。)
「田山藍さん…。
…!、やった、下の名前で呼んでいいんだ
“あい”って名前とっても可愛いから好きなんだ、是非そう呼ばせて貰うね。
藍ちゃん…でもいいかな?
その方が呼び捨て可愛いかな…?なんて。
それでね、えっとね、私は菜々宮千晴って名前してるんだよ。
菜々宮でも、千晴でも、その他でも。好きな名前で呼んで。」
(自身の胸に手を添えてニコッと笑む。
普通、菜々宮は女性相手だと『苗字+さん』で呼ぶが、下の名前で呼んでも良いと言われたので、そうする。
相手は『藍』で良いと言った筈だが、なんとなく『藍ちゃん』と呼んだ方が可愛い気がして、そっちを提案してみた。)
「はい、呼び方は御自由にどうぞ…。
ではこちらは…その他…が思いつかないので…千晴さんと、まずは呼ばせて頂きます。
それで…その他とは、どの様な物なのでしょう?
…正直、私そう言うの分からなくて……。」
呼び方は何でも良い、他人に名前を呼ばれる事が少し安心出来る事に気付いたから。
だが、千晴に言われた『その他』の呼び方というものが藍にはどうも分からない、それは何だろうかと思い千晴に聞いてみる事に。
とりあえず質問をしながら救護室の中に入ろうと思い、室内に歩みを進めようと。
「うん、勿論いいよ…!」
(ニコッと綻び。藍ちゃんが救護室へ向かうと、同じくその後ろを付いて、自分もその部屋に足を踏み入れる。)
「へ…?
うーん、そうだなぁ。その他と言えばほら、『ちはるん』とか『ちはちゃん』とか『ジバニャン』だよ。」
(聞かれた事に一瞬キョトンとし、だが問いに答えるべく色々と並べてみる。
明らかに何故か最後だけ色々と違うのだが。)
「取り敢えずね、その他は…渾名とか?かな。」
(それこそ菜々宮が引くレベルの余程奇抜なものでない限り、彼はどう呼ばれてもいいと思ってる。
先程例に出したもの以外だと『お姉ちゃん』とかでも。だが、生憎一つだけ『おにいちゃん』は売り切れだ。)
「千晴ちゃんで…そこからちはるん…。
…えっと……じゃあ…『はるちゃん』……で、どうですか?」
その他の呼び名の例をあげてもらって、それで何となく理解出来たので自分なりに考えてみた。
そうしてしっくり来たのが『はるちゃん』という呼び方であった為、その呼び方はどうだろうかと提案する。
「えっと、では診て頂けますか?
……お願いしますね。」
救護室に入ると、とりあえず座れそうな場所を探してそこに座って、見て貰えるかと聞きながら頭を下げる。
「ふふ、勿論いいよ。
私の名前も可愛くなっちゃったね。
藍ちゃんの名前は…元からかわいいけど…?」
(本心で言っているのに、何故か疑問符を付けて首を傾げて見せる。
はるちゃんっていうのは…うん。良いと思う。私が“ちはる”じゃなくて“はる”って名前だったら、確実に女子と見られて疑われないレベルで可愛いと思う。
それに……──)
「ちゃん付けで呼び合うってなんだか友達みたいだね。」
(そんな理由もあって、私は好き。)
「…でもどっちにしろ、藍ちゃんとはお友達になりたいし、この際もうなっちゃう…?
……お友達。
……あ!けど、おでこを見るのが先だね。
見た感じ青染みには成りそうにないけど……うーん、大丈夫かな…?」
(座った藍ちゃんに近寄り、彼女のおでこに目線を合わせて、じぃっと見つめる。
片手で打ったで有ろう所を再び撫でてみて、少しだけキュッと押す。)
「えっと………、この辺が……痛いかな?」
「……え…?…とも…だ、ち……?
…私……が、はるちゃん…と……本、当に…?」
座って診てもらうのを待っていた時に聞こえた不意打ちにも等しい一言、『友達』というだけの、本来なら誰でも口にするかも知れない一言に藍は驚く事となる。
驚きを含んだ表情をみせると、同時にはるちゃんが藍の丁度ぶつけた所を押すタイミングと、藍が自然と涙を零すタイミングが重なった。
押された時に多少だが痛みはあった、しかしそれ以上の何かがそれをかき消して行き、藍の頬を雫が伝っている事は藍自身は気付かない。
(ピャッと驚くと同時に、相手のおでこから急いでパッと手を離す。)
「え……?
ほんとうって、本当……だよ。
私は藍ちゃんと友達に成りたい…けど。」
(兎に角一度慌てる前に藍ちゃんの言葉に返答をし、気付かれないくらいの浅い深呼吸で更に自分を落ち着かせる。)
「大丈夫…?痛かった?
まさか其処まで痛いって分かんなくて…。
申し訳ないことしちゃったな、湿布貼る…?」
(何処が痛いか確かめる為の行動が、まさか藍ちゃんを泣かせてしまうとは……。
完全に菜々宮は彼女が痛みの所為で涙を流ししまったと勘違いしてしており、まさか原因が“友達”発言にあったとは思っても居なかった訳である…。
だから、ついさっき押さえてしまった場所を、救護室の前で行ったように再び、よしよしと緩やかく撫でる。
それにしても、加減はした筈…なんだけど。こんなに痛がるなんて、力の入れ方間違えたかな?それとも藍ちゃん自身が痛覚に敏感…、とか?
どっちにしても……。)
「ごめんね、藍ちゃん…?」
「いえ……いえ、違い…ます………。
痛い、とかじゃ……無くて、私…友達になろうなんて…言われた事無かったから…。
こんな…私で良ければ、友達に……なって、下さい…。」
自身の手のひらに雫が落ちた事で始めて自分が泣いている事に気付いて、それを自覚してしまえば止めることは出来ない。
今まで悲しみで涙を零す事は数え切れない程あった。
しかし嬉しいという気持ちで涙を零すという事は今まで一度も無く、止めたくてもどう止めれば良いのか分からない。
それでも此処でしか伝えられない事を伝える為に口を開く。
今まで誰にも伝えられる事が出来なかった只一つの言葉を、目の前に居る…見知らぬ優しい友人へ向けての一言を伝える為に。
「こちらこそ…ごめん、なさい……。
心配、掛けて…でも大丈夫だから……はるちゃん……。
………ありがとう。」
涙を袖で拭い、今まで暗い表情ばかり浮かべていた藍の表情は、不器用ではあるが確かに笑顔を浮かべてはるちゃんに向けていた。
まだ目尻に涙は浮かんでいる、しかし表情を見ればそれは喜んでいると分かるだろう。
そして握手を求めてはるちゃんに手を差し出す。
「…そうなの?
あ…良かった、安心した…。
じゃあ、その涙は喜んでくれてた…ってこと?
それは…凄く嬉しいかもしれない。
よろしくね、藍ちゃん。」
(握手を求めて差し出された手を両手で受け取り、緩りと振って仕草でもよろしくと挨拶した。
彼女の言い分が大袈裟だなぁ、とは思わなかった。
私でもついこんないいこが?って首を傾げたくなる程なんだけど。
嘘を話してる…とは思えないし。この子と友達になれて、色んな意味で良かったかもしれない。)
「あのね、藍ちゃんの笑顔は素敵だと思うよ?
あ、そうそう。本当に痛くなかった?おでこに湿布ってちょっと違和感あるかもしれないけど、本当に痛むなら無理はしない方がいいよ?」
(のほん、と当然の流れのように菜々宮のマイペース判断で突然に褒め。
これまた唐突に打ち傷の話に戻る。
どちらも本音だし、本当だし、言いたかった事だったんだが、それらが上手に纏まっては無い。)
「…ありがとう、でも本当に大丈夫だから…。
この位の痛みなら…全然感じないのと同じ、扉に頭をぶつけるだけなら大丈夫。」
握手に応じてくれた事、笑顔が素敵だと言ってくれた事、ぶつけた事の心配をしてくれた事、全部の意味を込めて御礼を伝える。
確かに痛みはある…しかしそれより強い痛みは何度も何度も味わった、知らない内に自分で付けた傷も、他人に付けられた傷も藍からすれば変わらない物だった。
それ故に、扉に頭をぶつけた程度では何も無いのと同じ事と捉えたのだ。
「それにしても…はるちゃん詳しいけど、医療関係の知識とか…結構豊富な方だったり?」
色々心配してくれた事を有難いと思いながら、的確な処置をしたのを思い出して医療関係の知識が豊富だったりするのかと聴いてみる。
「大丈夫…なら、いいね。
痛くもないのに湿布を貼ってもあんまり意味ないし。」
(再び安心した様子で、胸に手を添え咲顔を。
次にウンウンと頷いて納得の様子を見せた。
やっぱり湿布はアイタタタって成ったときに貼る物だし、そうじゃ無いとただ臭くなって不快。
それに、そこまで酷くない打ち傷とかだったら、ビニール袋に包んだ氷水とかの方が良い…かもしれない。
この船には無いだろうから、後で作っておこう。)
「あ~…!
そうだね、他の人にくらべれば…そうかもしれない。
でもお医者さんじゃないよ。保健室の先生を目指してるんだ…。
生徒さんの心の傷も、身体の傷も。ちゃんと癒やせるべく勉強中だよ。
そういう藍ちゃんは?」
(確かに、専門の学校に行っている分詳しいだろうなぁ…と自負して答え。
ついでになんとなぁく、相手の職業も聞いてみる。)
「私の夢……?
…夢は、昔に捨てた…。
私の夢が叶った時を考えたら…こんな………こんな私が居る場所に来てくれる人が居る様に思えなかったから…。」
自分の夢は何かと聞かれれば、表情は再び暗くなり口篭りながらぽつぽつと話して行く。
夢を叶えた時、こんな自分が居る場所に来てくれる誰かはいるのだろうかと考えると、自然とその夢を追い掛けるのを止めてしまった。
話をしている時の藍の表情には悔しさと諦めの感情が篭っており、自嘲気味に笑うだけ。
「夢…と、言うのが……小さくても良いから喫茶店を開く事だった…。
お父さんが開いて居た影響で、昔からそう思って居た…でも、こんな腕…見せられる訳無いから…。
だから、はるちゃんは絶対叶えて…?
何も出来なかった私の変わりに、夢を追いかけて…。
私でも…応援する位は出来るから……。」
それは一度は見た夢を叶える事を諦めた少女の、せめてもの願いなのかもしれない。
自嘲気味の笑みを浮かべながら、自分の袖を捲りあげる。
手の甲側の腕は白く綺麗な状態である、しかし手のひら側となれば両腕に刻まれた無数の傷跡、自身で付けたナイフの切り傷は藍の夢を諦める原因となった。
…だから、自分が出来なかった事を目の前の『大切な友人』には叶えて欲しかった。
せめてもの願いとして、夢を応援する事で自身の変わりに叶えて欲しいと伝える。
「…………。」
(赤錆が何本も残る痛々しい腕を見、様相は余り変えずに、だが精神では寂しげな呆気を取られている。
可哀想な腕だ、誰が付けたかは大凡見当が付いてるけれど、其れでも気がずに居られない。)
「これ…って、藍ちゃんが?」
(自然と胸が詰まって苦しくなる、見た目の痛々しさからもそうだが、其れが己が傷つけた物だと思えば尚更、心身共に傷だらけの彼女を想像し、居てもたってもいられなく成ってくる。)
「うん、あのね、私はね。ちゃんと頑張るよ、此処から誰も傷つけずに出て、夢を叶えようと思う。
……もしも私が夢を叶えても、ずっとお友達でいてくれる?
…放っとけないんだ、藍ちゃんの事…。」
(藍ちゃんの心を支えたいっていうのも本音だけど、彼女が何も抱えてなくなって友達で居たいと思っていただろうから、今は心配という言葉の方が近いんだろう。
自分が養護教諭になってしまったあと、藍ちゃんは自分から距離を取ってしまうんじゃないかってすこし怖くなって、こう言ったんだ。)
「知らない内に…自分で…。」
自身の腕に着いた傷跡を見ながら、知らない内に自分で付けていた物だと伝える。
「うん、勿論……はるちゃんとは、一緒に居たいから。
…だから、ありがとう……ごめんね。
こんな私で良ければ…傍に居させて下さい。」
友達でいてくれるかと聞かれれば、勿論友達で居続けると伝えて、こんな傷だらけな存在でも良いならば近くにいさせて欲しいと伝える。
「そっか……。痛いでしょ…?よしよし…。」
(直接触れると痛そうだから、触れずに空気上で撫でる仕草を見せる。
気付かないうちに、なら思ったより事態は深刻そうだ。
養護教諭は精神科医では無いし…残念ながらそういうのには専門外で悔しい。
痛いのは腕だけじゃなく、心もだろう。
少なくとも私は、気づかないうちに自傷なんてしてたら…ショックだもん。)
「ごめんねはね、言わなくていいんだよ。
私が頼んだから、寧ろ有難う。
私こそ、傍に居させて。どんな藍ちゃんでも大歓迎だから。」
(悲しそうな藍ちゃんでも、楽しそうな藍ちゃんでも
その時その時の気分で遠慮無く接してくれたら嬉しいと思う。)
「そういえば、その傷…手当てする?
手当てならね、上手くできるよ…!まるで包帯を付けていないような心地…!!
即ち冬に炬燵に入ったかのようなフィット感……!!
…かもしれない。」
『あぁ…この人には救って貰ってばかりだ…。』
そう思いながらはるちゃんの顔を見る。
最初は何故自分の様な傷だらけの人間と友達になってくれるのか分からなかった、しかし話して行く内に少しずつ分かって来たのかもしれない。
優しい人物である事を、そして自分がその傍に居させて欲しかった事を。
「…うん、ありがとう。
今、私でも夢……もう一度持てたかも。」
謝らなくて良い、ならばありがとうは伝えよう、そう決めてはるちゃんに微笑みかけた。
そしてもう一度、過去に捨てた物とは別の新しい夢を持つ事が出来たかもしれないと、そう伝える。
「…えっと、傷の手当てだけど……。
その……良かったら、お願いしても良いかな…?
今後の練習とか…そう思って貰えれば良いから。」
そして傷の手当ての件に付いて話して行く。
はるちゃんが良ければ傷の手当てをお願いしたいと思い、今後の手当ての練習にもなるだろうからと伝える。
何か出来る事はと考えて、怪我が多いので傷の手当ての練習としてこの身体を使って貰えればと思いながら。
「うん…!
…ほんと…!
それは、すっごく嬉しいと思うんだ。
…私は、叶えて欲しいよ。藍ちゃんの夢。
此処から出たら、二人で一緒に叶えちゃおうか。」
(あ、もちろん夢にかける労力や日数には差があると思うから、時間まで同時…とは行かないけど。
彼女が私を応援してくれるみたいに、私も藍ちゃんを応援して、そしてお互い叶えられたら凄く素敵な事だと思う。
相手が少し元気を取り戻してくれた様子と、見つけてくれた希望に、まるで自分の事のように欣幸溢れて堪らない。)
「ふふ、ありがとう。
でも練習だとしても、真剣で居なくちゃね。
しっかり手当てするよ~。」
(藍ちゃんのお言葉に甘えて、あまり気を貼りすぎないようにして手当てを始める。
救急箱を傍に持ってきて、消毒液や包帯を取り出し。必要だと思えば「ちょっと水を取ってくるね」と告げて。ガラスコップに水を汲んで来てから戻ってくる。
その水をガーゼに染みこませ、傷口を拭き。次に消毒、最後に包帯を…といった行為を真面目な様相で淡々とやっていた。)
「ふぅ…終了、…かな?
消毒液がね、染みるよね。今はもう大丈夫?
じ~んって来ない?」
(綺麗に包帯を巻き終えると顔を上げ、首を傾げながら聞いてみる。)
「二人で…うん、叶えようか…。
私も…頑張ってみる。」
夢を叶えたいと思った、だから藍自身も頑張ろうと決める事が出来た。
多分それははるちゃんと一緒にだから。
「うん、大丈夫だよ…。
染みるとか、もう無くなったから。
はるちゃん、ありがとう……お世話になってばかりだね…。」
はるちゃんの質問に微笑みながらそう答えて、自分の腕に巻かれた包帯に視線を落とす。
救護室に来てからずっとお世話になってばかりだと、御礼を伝えながら言う。
「うんうん…!キラキラ光るもの追いかけて。走って、掴んで。
それができたら多分すっごくこう、生きてる!
って感じがすると思うんだよね。
頑張ろう…!頑張る…!!」
(意気込んだ様子でふんふんと両手で小さなガッツポーズ。さながら運動会で一等賞を取りたい小学生の如し。
相手の“頑張ってみる”に反応し、此方も同じ言葉を繰り返し。)
「ううん、こう言う状況だから、お互い様だよ。
それに、私が藍ちゃんの役に立てる事って、すっごくすっごく嬉しいから。
また何かあったときも、私になら遠慮無く言って…!…ね?」
(相手が元気になると其れだけで嬉しい、感謝されると役に立てれたんだと実感する。
お世話になってもらって全然良いのだ。残念ながら迷惑なくらいに頼って来られるのが好きなタイプの人種なもんで…!
その分、自分が力になれなかったときは…とっても悲しいけど。)
「分かった、ありがとう。
…あと、さっき水持って来てたけど…何処から持ってきたの?
良ければ一杯貰いたいんだけど…。」
いざと言う時に頼りに出来る人間がいるのはとても心強い事である。
困った時や怪我をした時に、一人で対応しきれない時に頼らせて貰おう…そう考えながらはるちゃんに御礼を伝える。
そして先程、はるちゃんが持ってきた水の事について話し始めて、何処から持って来たのか聞いたあとに良ければ一杯貰いたいと伝える。
「一応…精神安定剤、飲んでおきたくて。
……切れると折角手当てして貰ったのに、また自分で傷増やしちゃうかもだから…。」
ポケットから精神安定剤を取り出して水を頼んだ理由として説明する。
切れればまた自傷行為に及び、折角手当てしてもらった腕に新たな傷が増えてしまうと考えたからだ。
「あ、お水…?それはね、厨房から汲んできたんだよ。
お水取りに行った後、ちょっと時間掛かっちゃったでしょ?
厨房はね、この船の三階にあるみたいなんだ。ホラ。」
(腕輪の地図機能を起動させ、全体的なマップを彼女に対し見せながら、厨房のある場所を指差す。
水を取りに行こうにも、何処へ足を運ぼうか迷い、結局菜々宮は其処へ向かったのだ。
その際ちらりと冷蔵庫の中も覗き、飲料があったから、水が飲みたいなら其処で大丈夫だと…思う。)
「…………そっか。
藍ちゃん、頑張ってるんだね。」
(朗らかに笑う訳でも無く、悲しそうに眉尻を落とす訳でも無く、真剣な面持ちだった。
お薬飲んで、自分に負けないよう踏ん張って。
距離の分からない道だ、此ばかりは“応援している”とか“頑張って”とか、相手のプレッシャーになりそうで言えなかった。
代わりに…──)
「傍に居るからね。」
(と前に言ったような言葉をもう一度繰り返し、薄く破顔する。)
「っ……うん…。
…はるちゃん、手……握って貰って良い…かな?
ずっと、不安で仕方が無くて……はるちゃんと会えてやっと落ち着けたかもしれない…。
…だから、本当に……ありがとう。」
傍にいるからと言われて顔を見て、藍の心の底で湧き上がって来たのは安心感に近い物で、このゲームが始まってから……もしかしたら生きて来た今までの時間の中でも一番の安心感だったかもしれない。
それを確かめたかった、その為にはるちゃんに手を握って欲しいと伝える。
今まで殆ど言ってこなかった我儘を、この人には我儘を言ってでも確かめさせて欲しかったから。
「…迷惑なら、それでも良い……私を嫌いになっても良い……だから…我儘聞いて貰えないかな?
……身勝手だけど…一度だけで…良いから。」
「…迷惑じゃ無い
嫌いにならないよ。
受け入れるし
ちゃんと好きでいるから。
…──安心して。」
(藍ちゃんの両手をとり、自身の両手で包み込むようにして握る。
最初に握手したときみたいに、上下にゆっくりとしたリズムで揺らして。)
「私もね、藍ちゃんと会えて良かったと思うんだ。
絶対に、藍ちゃんの事を見捨てたりなんてしないよ。誓う。
…危なくなったときは私を呼んで。助けに行くから…。
物理的にもそう…?だけど、心的にもね。」
(そうして私は、新しい物を背負おうとしている。それは彼女もかもしれないけど。
この行動が、“『此』に関する総て”が、後悔する物でないと信じて。
手を離して小指を立てて藍ちゃんに向ける。新しい“約束”だ。)
「…うん、分かった……。
はるちゃんも、何かあったら私の事…力になれるか分からないけど頼って欲しい…。
私も…はるちゃん程上手くはないけど……手当てをする知識はあるから…はるちゃんが怪我したら…私に言って?」
立てられた小指に応じる様に藍も小指を立ててはるちゃんの方に差し出しながら、もし何かあった時には自分の事を遠慮なく頼って欲しいと伝える。
殆ど何もする事が出来ないかもしれない、はるちゃんみたいに上手に手当てする事が出来ないかもしれない、それでも…少しでもはるちゃんの役に立てる様に頑張ってみるからと。
今まで本当に頼ってばかりの自分はもう嫌だった、だから今度はせめてはるちゃんにだけでも手助けが出来るように、そこから初めて行く事にしたのだ。
「…ねぇ、はるちゃん……もし、私が途中死んだら、ポケットにポーチがあるから……中に手当ての為の物が色々入ってる。
……だから、その時は…はるちゃんが役に立ててね?」
そしてもしもの話をしておく事にした。
もし藍が途中で死んだ時、藍の持つポーチの中に手当ての為に必要な物が色々入ってると伝えて、その時は役立てて欲しいと伝える。
勿論、精神安定剤もである。
「じゃあ…私も、分かった…!
何か苦しいことがあったら、藍ちゃんに頼ってみる…ね?遠慮なく。」
(彼女の言うとおりに、素直に厚意を受け入れる事にする。
恁うして面と向かって頼りにして良いと言ってくれる人が居ると、こちらも何だか気楽だ。
此処に連れて来られたばかりの一人じゃ無い、大切な物はどんどん増えていく。それって良いこと…だよね?
向け返された相手の小指に自分の指を絡ませて、指切りげんまんの形。
唄は歌わなかった。自分は針千本くらい飲んでやる!って覚悟なんだけれど、逆に…藍ちゃんに飲ませる何て出来ないなぁ…と思ってしまったから。)
「………うん。」
(その可能性を捨てたくて、考えたくなくて、絶対にそうは成らないと心の中で誓って居たから。自ら一度も口にしなかった台詞。
それを彼女は言ってのけた、“私が死んだら”と…。
少し、虚しくて切なくて、言葉に詰まったが。何か返さなければと必死になって緩く首を振り、なんとか喉奧に突っかかった言葉を引きずり出す。)
「…藍ちゃんは死なないよ。私も、死なない。」
「大丈夫……はるちゃんは私が守るから…。
だから、早く此処から脱出して…一緒に色んな所に行けば良い…。
その為に…今は頑張ろう?」
指切りげんまんの様に指を絡めてくれた後で、絞り出したかの様に紡がれたはるちゃんの言葉。
それは藍にとっても苦しい物を残した。
それならば自分が巻いた種は自分がどうにかしなければと思い、はるちゃんの手を握り返してそう告げた。
「ごめんね…こんな思いさせて……。
手当てありがとう…私、食堂行くね……。
はるちゃんは…どうするの?」
「…藍ちゃんも、私が守る。
藍ちゃんは、私が護るから……!
…うん、行こう、頑張ろう。絶対出よう…!」
(問題さえ解いていれば出れる、人殺しなんて誰もする必要がない。
この時の菜々宮は、完全にそう思い込んで居た。
解けない謎も皆で協力してほどけば真相は見える、もう誰一人死ななくて良い。
思いたかった。
だから真っ直ぐな気持ちで、言を放っていた。)
「ううん…。私が…私の方が、可笑しいのかもしれないし。
気にしないで…。私の方こそ、ごめん。こういう状況に慣れてないって言うか…えへへ、慣れてる筈、無いんだけどね。」
(でも、まだ頑張れば強く居られる。希望があるなら、進んでいける。)
「食堂、行ってらっしゃい。
私は…どうしようかな。もう夜だし…船の中を歩いて無理に起きてても…うん。明日朝とかお昼に寝ちゃいそうだし…。
個室に戻ろうかな…ふぁ~。」
(お互いの目的が決まるなり、ふらぁっと緩り立ち上がり。
救急箱を整理して、元の位置に戻す。)
「あ、食堂行くなら、…良かったらね、これ持ってってくれると嬉しいな…。」
(にへりと少し申し訳なさげにはにかみ、自身が持ってきたガラスコップを差し出した。)
「…そっか、じゃあゆっくり休んでね?
明日もあるし、元気でいないと大変だから。」
はるちゃんが自室へ戻ると言えば、その頭を最初にして貰った時の様に見よう見まねだが優しく撫でて、明日もあるから今の内に休んで置いた方が良いと伝える。
「これを、持って行けばいいの?
分かった、じゃあまた会おうね…はるちゃん。」
そう言って藍はガラスコップを持って救護室から出て行き食堂へ向かおうとして、出ていく時に振り向いてまた会おうねと伝えて。
(何処か呑気で時折抜けた性格をしているせいか、何度か頭は撫でられた事が有る。
でもこの船に来てからは、多分初めてだ。その直前は、私と似た名前の男の人…?に一回だっけ。
まだそれから何日も経っている訳じゃ無いのに何だか懐かしく感じて。やっぱり溢れる返るように幸福だった。
撫でられた部分を頭で抑え、ニッコリと満悦。
表情といい、仕草といい、雰囲気が全体的に開花の如く煌めいている。)
「ありがとう、藍ちゃん…。
明日でも明後日でも明明後日でも…会おうね…!
藍ちゃんも、ゆっくり睡眠とって、ご飯食べて…元気でね。」
(その場から手を振り、彼女が部屋から去って行く様子を見守る。
相手の姿と言葉に此方も「またね」と最後の挨拶を交わし、そのうち直ぐに部屋には一人ぽっちになる。
そうなると自分も此処でやることは他に無く、迷わず救護室を出ると、個室の方を見。
空き部屋は残ってるかな~と安気に想いながら、フワフワと其方の方へ歩んで行った。)
- 最終更新:2018-02-28 15:36:05