繰夢夜x繰夢ニ
Chapter1
1日目 ― 繰夢 夜美 → 繰夢 ニコ 以下交互
「…………んっ……?」
うっすらと瞼を焼く光を感じて、少女は目を覚ました。
ぼんやりとした思考の中、まだレポートが終わっていないのにと、そんな呑気に考えながら、ゆっくりと硬い床から起き上がるように……
そこでハッと、自分のありえない状況に気づいた。
……なぜ自分は硬い床の上に寝ている?
今まで寝落ちしたとしても、隣の姉が寝落ちてからだったし、そもそもいすの上から落ちてしまうほどの寝相の悪さも持ち合わせていない。
どういうことだ? という疑問と、何かがおかしいという確信を感じれば、完全に覚醒したようで、目を開く。
そこは見知らぬ広場の中で、自分たち双子の他にも、知らない大人がたくさんいて……
そして、何やらアナウンスが流れ終えると、広場の中央にいた少女が炸裂して……
「ね、ねぇ様、ねぇ様!! 起きて!!」
不幸中の幸いというべきか、近くにいた姉をたたき起こそうと、横たわる体を大きく揺らして。
辛うじて近くにいた姉がいたから気絶することは無かったが、それでもこの恐怖は薄れることなどない。
もう周りの目など気にしていられるような状況でもないのだからと、声を荒らげながら姉のことを呼んで。
ふにゃあ~なんだここ〜。ははは~目の前がたこ焼きだらけだ~たこ焼きだ~。わ〜たこ焼きが空から降ってくるぞ~。口を開けて食べちゃうぞ~。ってなんだあれ?めっちゃデカいたこ焼きが私目掛けて降ってくる〜。いただきま────────
ぐちょぉぉお!
「うわっ!と、ええ?どうしたのよ妹よ。」
たこ焼きに潰され目が覚めたかと思いきや、妹が全力で私を起こしていたとは。ただならぬ雰囲気だ。と言うか、今私は見たことのない場所にいる。確かに私達は寝落ちしてしまったのだが、別に酔っ払っていた訳ではない。それ故、見覚えのない、なんて事はありえないのだ。そりゃあ、妹が慌てるのも頷ける。状況を整理しよう。そうすれば答えは必ず出るはず!
「そもそもここは何処なのよ?もしかして誘拐!?何処ぞのロリコンめ!私達は子供じゃないのよ!?」
やはりアホなニコなのであった。
「ちがうわ! こんな時にまでアホの子はやめてねぇ様!!」
誘拐だのロリコンだのと目覚め際に叫ぶ姉の頭部に、しっかりと目が覚めるようにチョップを繰り出して。
しかし、姉のそのアホさ加減に、逆に落ち着きを取り戻したようで、ゆっくりと深呼吸しては、今起こったことを頭の中で軽く整理して。
「……ねぇ様、これそんな生半可なものじゃないわ、人が1人、もう死んでるんですもの」
偶然なのか、計算されていたのか、こちらの方に血糊が飛んでくることは無かったが、たしかにこの目で、そしてその目の前で、人が死ぬのを目視したのだ。
今こうして落ち着き払っていられるのは、ひとえに姉ならこの突飛な状況でも何とかしてくれるという信頼ゆえだ。
そして、つい先程行われたアナウンスと目の前で起こった出来事をこと細かに説明を始めた。
ふむふむ、なるほど。訳わかんねぇ。
「もし、このナゾナゾを解けなかった場合、私達は死んでしまうという事ね。それも他人には教えてはいけないだなんて……圧倒的に私に不利じゃない!!」
だからって人を殺すほど愚かではないわよ?私は。とは言ったものも、集中力が皆無な私にどうしろと。いや、でもヒラメキだけなら何とかなるかもしれない。なんだって私達は二人で一人の天才なのだから。
まずここで人が死んだ事。これに至っては寝てたから実感が湧かないけど、妹の言うことと、血痕などから見て事実ね。
そしてなぞなぞ。「私は何処にいるでしょうか?」これに至ってはまんまなのか、なぞなぞなのか…まずはそこからだ。だが、普通に考えてまんまな訳がない。だとしても、謎を解いた先が結果なのだろう。しかしなぁ、これはヒラメキ一択だな。
「共に考えるぞ、妹よ。ただこれだけは言っておきたい。もし、この問題に答えられなかったら………その時は迷わず私を殺してちょうだい?」
「え…………な、なんてこと言うのねぇ様!?」
共に解くぞと、一緒に協力しようと言われた矢先の、危なくなったら自分を殺せという言葉。
それを聞けば慌てるように、そしてそれを必死に否定してもらいたいと、駄々をこねるように言葉を紡ぐ。
今までずっと二人でやって来て、同じ大学の同じ学部にまで入って、目が覚めたらこんなところにいたけれど、それでもふたり一緒にこの場所で、二人でいなければ私は何にもできないのにと、密かに怒気を孕ませながら。
「私たちはいつも二人で一緒でしょう!? そんなこと冗談でも言わないで!
一緒に出るの! それ以外認めないわ!!」
「でもこのままじゃ、埒が明かないわ。ここは役割分担が大切になりそうね。」
妹が情報収集とその情報整理。自分がそれを元にヒラメかせる。そして二人でゴールする、とそう伝える。これは別に私が楽をしたいのではなく、ちゃんと考えあっての事だ。私と違って夜見ならば聴き逃しすることもないだろうし、それを整理する能力が身についている。私がやるよりはよっぽど効率がいいだろう。
今の情報だけではこの謎を解くのは難しいだろう。そして答えも教えてもらえない。だが、ヒントが貰えないとは言われてない。そもそも誰も解らないクイズなどだすだろうか?いや、誰かがやっとこ解るからこそ、なぞなぞとは出題者、回答者共に面白いのだ。そしてなぞなぞの醍醐味とはヒラメキだ。1度ヒラメけば、答えがポンとでてくる。つまり、もう解ってる人がいるかもしれない。それを教えてくれるかどうかは分からないが、やらないよりかはマシだろう。
「頼んだわよ、夜見。」
ここは妹に任せ、とりあえず自分はぼ~とする。ヒラメキとは故意に起こらないものだから。
「…………分かったわ、ねぇ様。」
言うことだけ言ってそうそうにボーっとし始めてしまった姉に若干呆れつつも、姉からの頼みである情報収集をこなさなくてはと、なんとか自分を奮い立たせる。
完璧にやらなければ姉が死んでしまうかもしれないのだ、そんなことは絶対にさせない。
こんな状況に私たち姉妹を閉じ込めた”何か”を睨むようにして虚空に視線を向けては、まずはほかの人たちとなんとかして会話するところから始めようと、その場を立ち去った。
- 最終更新:2018-02-21 18:44:03