我妻隆x八色

Chapter1 ― 我妻 隆生 → 八色 花音 以下交互


「…こうも徹底して外界と遮断されちまうとなぁ…。
携帯ブン取る必要がある以上、陸地とそう離れてる訳じゃ無いと思うんだが…っと。……此処も駄目か。」

人が来る前に大雑把に個室は物色したが、大した物はない。
強いて言うならば、全ての窓が黒く塗られていた事くらいしか特筆すべき事は無い。
そんなこんなで、今一度階段を登って3F。大ホールがあった階層だが、スタート地点に戻ろうと言う訳ではなく、目的地はまた別。
同階層の展望ラウンジ、その扉のドアノブを動かすと、勢い良く蹴り飛ばし。…顔を顰めた。

「…是が非でも外は見せねぇってか。馬鹿正直に謎に向き合えと?
手前は見せしめで人を殺す癖に、随分厳格なルールを敷くじゃねえか。」

一面を覆うガラス、今それは黒く塗り潰され、外を見る事は叶わないのだが。
壁の一部が真っ黒に塗り潰された光景はある種異様で、近寄り難いが、来訪者は余りそう言うのを気にしない類。

どうするかね…と考える片手間にガラスに立て続けに蹴りを叩き込む壮年の探偵。丁度八音らが居座る救護室の隣、その騒音は嫌でも聞こえることだろう。

暫くして案の定やって来た八色。
片手をポケットに突っ込み、空いた片手を大きく振り走りながらその場所へやって来るとその光景に驚いた表情を隠せなかった

「...何かうるさいと思ったら...何よこれ...?
黒塗りってもう少し何とかならなかったのかしらね!こんな場所に居たら気が狂ってしまうわ
......これもあのなぞなぞに答えさせる為のものなのかしら...」

似た結論に辿り着いたオカマは息を整えると近くの蹴りを連打する探偵を見つけ、ゆっくりと近寄っていく

「...ちょっと、貴方何やってんの...隣まで響いてきたわよ
...それ、どう?どうせ普通のガラスじゃ無いんでしょ
もう...こんなのは推理小説ものね...」

自分の知るものに例える行為は落ち着きを取り戻す効果を狙っての事だった。
他の参加者に比べ冷静さを保つ八色は年季だけではない経験を持っている雰囲気を出していた

「…あぁ、ダメだ。ヒビの一つも入りゃしねぇ。下の個室も大体調べたが全部同じだ。
船の形をした牢獄みたいなモンだ、ルールに穴は無いらしい。」

忌々しそうに蹴りを辞めると後ろを向く。……オカマ?
懐から手帳を取り出し、手早くバツ印を付けつつも、非現実+稀有な物のコンボで少し思考が麻痺する。
探偵とは言いつつも、某少年名探偵やじっちゃんの名にかける高校生とは違う、謎にぶち当たるなどほぼ初めての経験。
とは言え、無為に重ねた年季とまぁまぁの修羅場の経験数から、こちらも相当冷静な部類。

「推理小説の世界ならまだマシだがな。…見せしめの為に初っ端一人が弾け飛んだ、これじゃ主催者がルール通りにやってくれるとも思えねぇよ。」

なるべく見ないようにした惨劇だが、どうしても脳裏には残っている。
脱出ゲーム、謎解き。それらを提示しながら無条件に一人を殺す場面を目の当たりにすれば、当然このような懸念も生まれると言うもの。

「...今はまだ、余裕があるけれど
どうせ向こうの狙いは謎解きじゃなくもう一つの方法。答えが無い、なんて事は...あのタイプの愉快犯じゃそれは無いでしょうし...こんなの用意してるんだしね

でも時間が経てば何かしでかしてくるでしょうね
そうなると...今度は人手が脅威に変わる。それだけは阻止...なんてことは出来ないでしょう
注意しないといけないわ」

腕を組んで懸念を語る。
大きくため息をついて、状況把握を優先する

「...ただ殺すだけならこんなの用意しなくて良いでしょうし、殺せば出してやる。謎を解いたら出してやるって言うのは...救いを提示する必要性があると考えて良いでしょう

まぁ...裏の事よりまずは表の事ね
...私は八色花音、......医者よ」

少しの間の後に、素性を語る。
世を渡る能...人付き合いを有利に運ぶ頭はある
出来れば敵は少なく...万が一争いが起こった時『どちらにも残れる様に』動いてきた
今回も、それを重視する様だ

「我妻隆生、街で探偵をやっている。…あぁそうだ、仕事で思い出した。
このゲーム、過去に少なくとも一度は開催されているらしいぜ。
一瞬だけニュースになった失踪事件、覚えてるか?」

二年前のある日、唐突に話題に上がった集団失踪事件。
何より異質なのは、その話題がパッタリと突然途絶えてしまったこと。

「そん時の生還者が脱出ゲームが云々と漏らしたらしい。
…こう言っちゃ何だが、前のと同じパターンなら外部からの救出は先ず無いと見た方がいい。」

手帳の頁を捲り、ある1ページを開く。
先日二階堂奏から齎された情報がそこには記されていた。
……そう言えば、自分よりも事件に近い彼女はどうなったのだろう。

「...あぁ...あれね...えぇ、その時は余り覚えてはいないのだけど、まさか自分がそれに関わるとは...
世も末ね、でも生還者が居たのでしょう?
それは吉報よ。人数は...聞かないでおくわ

で、探偵さんなら謎について何かとんちの聞いた答えはない訳?
『答え』を教えるのはOUTだけど、『予測』なら大丈夫なはず」

「ンなモンねぇよ。こんな明確な謎にブチ当たるのは初めてだ、これまで浮気調査やらの地道な尾行ばっかやってたんだぜ?」

コ〇ンとかあぁ言うのは全部フィクションの話だっつーの、とボヤきつつ手帳を仕舞う。
出来るのは地道な足を使った探索のみ、まぁ、探偵を名乗るだけあって頭の回転に自信はあるのだが、まだ探索もまともにしていない。

「ただまぁ、物理的に何処かに主催者が居るって訳じゃ無さそうだ。何人か機関室やらに殴り込みをかけているのが見えた。
…だから俺がやるのはいつも通り、地道に歩いてヒントを集めるだけさね。」

探偵の現実はこんなモンだ。ましてや華の無い31歳のおっさん。
マップを開こうと腕の端末を操作する傍ら、あぁと何かを思い出したように。

「…この通り、基本の反復は大切だ。
ましてやこの異常事態だ、確かな物から道を見出すしかない。
てな訳で放送でも聞き直したらどうだ?コレで聴けるぜ。時間潰しにも丁度いい。」

トラウマ級の放送を聞き直すことは余り勧められないが、冷静な目の前の人間なら多少は耐えられるだろう。
聞き直せるってことは何か隠れてるのかもな、と適当に続けつつ。

「...そうなもんなのかしらね...分かったわ...」

宛が外れた、と現実に愚痴を吐き
再びため息をつきながら

「放送ね...分かった、聞いてみる。
じゃあ探偵さん。何か分かったら私にも教えてくれるかしら
多数の人の意見を取り入れる事の効果を知らない訳では無いでしょう?
それに、私は私のやり方で貴方を助けてあげられるから
考えておいてちょうだい
...最後の手段には出たくはないから」

静かにそう言うと背を向け歩き始め

「...じゃあ、私は他の所回ってみるわ
持病を持ってる人が居れば大事だから...
色々、ありがとうね本当に」

と、礼を告げて離れていく


  • 最終更新:2018-02-18 01:02:35

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード